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エピローグ  聴いて! あたしのソプラノっ!(2)

『それがエスカレートして、彼女、ちょっと病んでしまったみたいで。それがいろんなトラブルを生んで……』

『あの、聖弥くんが使っていた部屋、実はノブちゃんの部屋だったんだよ。彼女、あそこから毎日、宝満養鶏場の庭を眺めていたんだ』

『いや、俺、高校入る前まで、ほとんど毎日、宝満家へ遊びに来てたからな。だから知ってるんだ』

『俺が日向ちゃんのお母さんと縁側でスイカ食ってたり、庭でキャッチボールしてたりすると、すごく恨めしそうに見下ろしててな』

『まぁ、もしかしたら、ちょっと寂しかったのかもしれんな』

 そうだったんだ……。

 聖弥くんのお母さん、もしかしたらあたしと同じように、自分のことがすごく嫌いだったのかもしれない。

 農家で育った自分の過去を消して、家も納屋も街ごと消して、新しい自分になりたかったのかもしれない。

 それにしても、翔太のお父さん、毎日、お母さんに会いに来てたんだね。

 縁側でスイカ食べたり、庭でキャッチボールしたり。

 もしかしたら、お母さんのこと好きだったのかな。

 でも、お母さんがお父さんと出会って、お父さんが養鶏場を継いでからも、翔太のお父さんはずっとお母さんのいいお友だちで居てくれたんだ。

 なんか、とっても素敵。

 あ、ひょっとして、翔太もあたしのこと……、いや、ないな。

 もう完全に小夜ちゃんと付き合ってる感じだし。

「どう? おいしい?」

「うん。イチジクなんて久しぶりに食べたわ。すごく甘くて美味しいね」

「よかった。田中さん、それ聞いたら喜ぶね」

「そういえば、今日は、三条さんは?」

「聖弥くん? もうすぐ来るよ」

 病室の窓の下、さっきから小さく聞こえている、ガタゴトという音。

 今日は、お母さんの夢をちょっとだけ叶えるんだって、聖弥くんがいろいろ張り切ってくれてて。

 窓を開けて、そっと下を覗く。

 うわ、そんなにたくさん?

 しかもジャガイモだらけじゃない。

「お母さん、ここ、椅子置いておくから、あたしが呼んだらここに座って窓の下を見て」

「窓の下? なに?」

「いいから。まだ見ちゃだめだからね? あたし、行ってくる」

「あっ、ちょっと――」

 お母さんの病室を出て、階段をパタパタと駆け下りた。

 通用口を飛び出して、お母さんの病室の真下の駐車場へと走る。

 見えた。

 聖弥くん。

 今日も素敵な笑顔。

 やっぱり、背が高くてカッコいい。

 あたしを見つけて手を振ってくれている。

「聖弥くんっ!」

「こら、あんまり息を上げるな。もう準備できてるから、いつでもいいぞ。ほーら、深呼吸して整えて」

 ちょこんと頭に乗せられた、聖弥くんの手。

 もう、未来の奥さんを子ども扱いしないで。

 すると、聖弥くんの向こうから聞こえたのは、聞き慣れたアニメ声。

「翔太っ! アタシの頭もなでなでしなさいっ!」

「なんでだよっ!」

「じゃ、アタシがするわっ! ジャガイモっ、よしよしっ」

「うわ、やめろっ!」

 そのやり取りを、さらにその向こうのジャガイモの集団がゲラゲラ笑って眺めている。

 駐車場に置かれているのは、ビールケースとベニヤ板で作られた簡易ステージ。

 ステージの前は、観客役の野球部員たちでいっぱい。

 駐車場で車を降りた人も、なん人か立ち止まって見ている。

 ステージの横には、我が家から運んできたアップライトピアノ。

 ピアノには、聖弥くんのお父さんがスタンバイしていた。

 聖弥くんのお父さん、すっごくピアノが上手なんだよ?


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