4-3 あたしたちっ、結婚しますっ!(5)
立ち上がろうとするお母さん。
あたしは、もっともっとフォルテシモで、もっともっと胸いっぱいのその言葉の旋律を高らかに奏でた。
「あたしたちーっ! 結婚しまぁぁぁーすっ!」
どどどん。
一瞬の沈黙。
あたしの前には、もっと「はぁ?」となった聖弥くんのお母さん。
そしてっ、そのときっ。
「よく言ったぁぁぁーーーっ!」
お母さんのその向こう、玄関のほうから聞こえた聞き覚えのある声。
「日向ちゃんっ!」
「日向っ!」
「ひなっ!」
あっ! みんなっ!
翔太のお父さん、翔太、小夜ちゃんっ!
みんな来てくれたんだ!
聖弥くんのお母さんのすぐ後ろまで、ドドドとみんなが押し寄せる。
嬉しいっ。
翔太、すごいドヤ顔。
うわ、小夜ちゃん、なんなのその格好っ。
しっかりと着こんだ野球のユニフォーム、そして足元はピンク色のゴム長靴。
たぶん、動きやすい服装って翔太に言われたのね。
それにしても、どこに売ってたの? そのピンクの長靴。
翔太のお父さんは、聖弥くんのお母さんを見て、なにかあうあうと口を動かしている。
ん?
誰だろう。
翔太のお父さんの後ろに……、見たことのない、恰幅のいいスーツ姿の男性……?。
慌てて立ち上がって、お尻をはたくお母さん。
「けけけっ、結婚っ?」
はいっ! そのとおりっ!
もう決めたもん。
あたし、聖弥くんのお嫁さんになるっ!
そして、一緒に美味しいイチゴをいっぱい育てるんだからっ!
「ゆっ、許さないわっ! 結婚には両方の保護者の同意が要るのよっ!」
そう言って、お母さんがこちらへ駆け寄ってあたしの襟首を掴むと、すぐにスーツの男性がお母さんの手を押さえた。
「ちょっと待ちなさい」
「え? パパっ」
ん? パパ?
えええっ? もしかして……、聖弥くんのお父さんっ?
うわ、またしても初対面の将来の義理の父の前で、あたしはなんとういう格好をっ!
ハッと聖弥くんを見上げた。
聖弥くん、嬉しそう。
「父さん、来てくれたんだ」
「ぜんぶ、小夜さんから聞いた。お前、熱があるんだろ? ちょっと横になってろ。日向さんを心配させるな」
「いや、でも」
「大丈夫だ。ハウスの補強は父さんも手伝う。それから……、信子」
聖弥くんのお父さんが、掴んだ手をゆっくりと下ろさせながら、とっても優しい声でお母さんの顔を見下ろした。
「信子の夢は、『星降が丘』を作って、その頂上に住んだことで叶ったじゃないか」
「でもっ、まだ残っているわっ! この農園さえなければっ……」
「そのために、今度は聖弥の夢を奪うのか? 僕らの夢は、もう叶った。次は聖弥たち、若い人たちの番だ。夢を追いかける彼らを、聖弥を、しっかりと見守ってやろうじゃないか」
聖弥くんのお父さんを見上げて、お母さんがわなわなと唇を震わせた。
「あなたっ、私はっ、私はっ……」
突然、その頬を走った大粒の涙。
聖弥くんのお父さんが、すっとあたしを見上げる。
「日向さん、さっきのプロポーズ、感動したよ」
「え? あ、あの、あたし……」
「確かに。未成年の結婚には両方の保護者の同意が必要だが、日向さんのお母さんは……、ちゃんと同意してくれるのかな?」
「ええっと……、はい」
「そうか。それなら安心した。じゃ、私も同意させてもらうよ? 聖弥をよろしく」
うぐっ!
急に息がっ……。




