4-3 あたしたちっ、結婚しますっ!(3)
確かに、聖弥くんには似合わない。
そんなこと、言われなくても分かってる。
でも、聖弥くんの気持ちはどうなるの?
聖弥くんが、とても辛い思いの中で、ほんの小さな希望の光を見出して願った夢はどうなるの?
「聖弥? 大学へは行かない……、オーディションも受けない……、それでいいと思ってるの? 農園をやりたいとか、狂気だわ。あなた、いつかはパパの会社の社長になるのよ? 社員に馬鹿にされないようにしてっ」
「そんなもん、俺がならなくても、社内の優秀な誰かがなればいいだろ。俺は父さんの会社を継ぐつもりはない。俺の居場所はここだ」
「そう? その居場所、いつまであるかしらね」
お母さんが、ジロリとあたしに目を向けた。
え?
なんですか?
「日向さん、お母さまから聞いてる? お金、ないんでしょ? このままいけば来年はもうまったく借金を返せなくなるわよね?」
「え? えっと、それは……」
「あなただって分かってるわよね? この家も土地も抵当に入ってるんだから、お金が返せなくなったら銀行に取られて、もうここには居られなくなるって」
そんなこと分かってます。
でも、それをどうにかするつもりで、あたしは頑張りたいってお母さんに言ったんだもん。
聖弥くんを巻き込みたくなかったけど、でも聖弥くんが、あたしと一緒に頑張りたいって、あたしを幸せにしたいって言ってくれたから……、あたしは……。
「なんで、そんなこと知ってるんですか?」
「そりゃ知ってるわよ。私が願った『星降が丘』の完成を邪魔した農園だもの。お父さまが亡くなられてからは、ずっとこの土地を売って欲しいって三条建設からオファーをしてたんだけど」
そうなんだ。
お母さんが言ってた、『土地を買いたいって言ってる業者』って、三条建設のことだったんだ。
でも、『星降が丘』って、聖弥くんのお母さんが願ったから作られたの?
どういうこと?
「そうだったんですね……。あの、経営はちょっと難しい状態ですけど、来年は自分でやるハウスを減らして、近くの農家のひとたちにハウスを貸して、賃料を利子の返済にあてて……、そうやって少しずつ立て直していこうと思ってます」
「ふぅん。意外としっかりしてるのね。でも無理ね。そんなに簡単にハウスを借りたいという人が見つかると思っているの? 現実を見ないとダメよ? お嬢さん」
「絶対、どうにかします」
「ふんっ、夢みたいなこと言ってないで現実を見なさいっ! あなたのその夢物語に聖弥は惑わされているのっ! もう、いい加減にしてっ! 聖弥っ、帰るわよっ?」
あたしに怒鳴ったあと、聖弥くんのほうへ一歩踏み出したお母さん。
その足がガツンとなにかに当たった。
「痛っ!」
ゴロッとひっくり返ったバケツ。
お父さんのイチゴが土と一緒に土間に散らばる。
「もうっ! なんなのっ!」
次の瞬間、聖弥くんのお母さんの足が、お父さんのイチゴを思いきり踏みつけた。
「あっ!」
さらにドンと音がして、蹴られたバケツがあたしの足をかすめて台所の入口まで転がる。
「姉ちゃんっ!」
あたしに駆け寄る晃。
「聖弥っ、早く来るのっ!」
お母さんが土間から背伸びをして、聖弥くんに手を伸ばしている。
その足元には、踏みつけられてちぎれた、お父さんのイチゴの株……。




