4-3 あたしたちっ、結婚しますっ!(2)
そう言ってあたしは、その場にお父さんのイチゴが入ったバケツを置いて、聖弥くんを止めようとカッパを脱いだ。
そのときだ。
ドンドンドンっ!
激しく叩かれた、玄関の戸。
誰?
こんな嵐の夜に。
戸に駆け寄る。
「どなたですかっ?」
「あ、日向ちゃんかい? 俺だよ。山家」
「山家さんっ? ちょうどよかったっ! ちょっと手伝って欲しいんだけど――」
そう言いながら戸を開けると、そこには……。
「日向ちゃん……、ごめん……」
ずぶ濡れの山家さん。
そして、その後ろに、フード付きのロングコートを着た、品のいい女性。
「え? あの……」
「日向ちゃん、俺、どうしても断れなくて……」
山家さんがうなだれてそう言ったかと思うと、突然、そのコートの女性が山家さんを押しのけた。
「どきなさいっ!」
戸の向こうへ消える山家さんの姿。
続けて、ゆっくりと土間へ足を踏み入れてきた、コートの女性。
「あなたが、日向さん?」
うわ、すごい美人。
なんであたしの名前知ってるの?
「え? はい。どなたですか?」
「どなたですって? よくもまぁ、聖弥を惑わせてくれたわね」
「はい?」
えっ?
もしかしてっ……。
すると、居間から土間を見下ろしていた聖弥くんの声が、あたしの後ろで小さく聞こえた。
「母さん……」
やっぱりっ!
きききっ、キヲツケっ!
「はっ、初めましてっ! あたしっ、宝満日向ですっ! こ、こんな格好でごめんなさいっ! いつも聖弥くんにはお世話になって――」
「ほんと、お世話しすぎよね。もういい加減にしてほしいわ」
ずぶ濡れのロングコートを脱ぐ聖弥くんのお母さんの後ろ、玄関戸の向こうから山家さんがそっとこちらを覗いた。
ものすごく、申し訳なさそうな顔をしている。
ふんと鼻を鳴らしたお母さんが、濡れて重たくなったコートをあがりかまちの端にドサリと放り投げた。
「聖弥? あなた、どういうつもり? 帰って来ないから山家くんの部屋に逃げてるのかと思って来たんだけど……、だいたいなに? その汚い格好は」
「なにしに来たんだ」
汚い格好?
お父さんのパジャマなんだけど……、汚い格好?
「聖弥っ? 一緒に帰るのよっ? こんなところ、あなたの居る場所じゃありませんっ」
「あああ、あのっ、お母さんっ、聖弥くん、雨のせいでちょっと熱があって、それで、あたしが勝手にお布団を敷いて休んでもらってただけでっ、そのっ、聖弥くんはなにも悪くな――」
「ちょっと黙っててくれないかしら」
「ひっ」
聖弥くんを見上げながら、ゆっくりと土間の真ん中へと歩いてくるお母さん。
土間の手前の敷居で立ち止まって、じっとお母さんを見下ろす聖弥くん。
あたし、どうしたらいいの?
「聖弥、あなたは一時的な気持ちに惑わされてるの。あなたに農業なんてできるわけないじゃない。それに、あなたにはまったく似合わないわ」
「違うな。母さんが考えているのは、己の虚栄心を満たすことだけだ。周囲の羨望を集められる仕事に俺を就け、そしてそれをしたり顔で他人に話すことを夢見ているだけだ」
「なにを言っているのかしら。私は聖弥のことを一番に考えているの。こんな第一次産業の仕事は、それが似合っている人間がやればいいの。ほら、そこのお嬢さんみたいな」




