4-2 もうっ、いっぱい抱きしめてやるっ!(5)
「その寸前まで、俺は、自分の実力で再デビューしたい、彼女と一緒にユニットでデビューしたいって、そう夢見ていた。でもそれが、単なる独りよがりな夢で、母さんと同じ、自分のためだけの夢だったんだって、彼女たちの夢の話を聞いて気がついたんだ」
「それからすぐ思ったよ。俺もこんな素敵な愛情あふれる中に身をおきたい……、誰かの幸せに繋がっている夢を持ちたい……。そして、ずっと……、ずっと彼女のそばに居たい……ってな」
ダメ。
泣いちゃいそう。
「そして……、彼女のお母さんに会って、その思いはもっともっと強くなったんだ。だから、日向、俺の夢は――」
すっと伸びた彼の手が、あたしの頬に触れた。
「俺の夢は、日向……、お前を幸せにすることだ。お母さんの夢を叶えて、弟たちみんなの夢を叶えることだ」
もうっ!
目が開けられないじゃないっ!
「ぐしゅん……。もういい。もういいよ……」
あたしは熱くなった目頭をスウェットの袖で押さえて、それから彼を名前で呼んだ。
「聖弥くん」
彼がゆっくりとこちらへ顔を向けた。
彼の瞳も、しっとりと雫を湛えている。
嬉しい。
ほんとに嬉しい。
思わず両手を広げた。
すると頬に触れていた彼の手が、すっとあたしの頭を抱き寄せた。
ごめん。
あたし、素直になるね。
あたしはゆっくりと、掛布団越しの彼の胸に顔を埋めた。
彼の手が、優しくあたしの背中に回る。
ベッドから後ろへ落ちそうになったあたしを支えてくれた、あのときと同じ手。
おでこが彼の頬にぎゅうっと引き寄せられた。
聖弥くんの胸の鼓動が聞こえる。
「聖弥くん……、なんだか夢みたい」
「うん」
「でも、聖弥くんのお母さん、絶対怒ると思う。いいの?」
「うん」
ちょっとだけ顔を上げて聖弥くんの顔を見上げる。
「ほんとに? ほんとにほんと?」
「うん」
おでこに伝わる、彼の温もり。
これからどうなるか分からないけど、ずっと彼のそばに居たいって、そう思った。
「聖弥くん、あっつい。明日の朝までに熱が下がればいいけど。今日はもうこのまま休んで。でも、聖弥くんのお父さんお母さん、心配してない?」
「そうだな。一応、親父にはここを訪ねることを言ってあるが――」
そのとき突然、縁側から聞こえたドドドドっと近づく足音。
ハッ、やばいっ!
次の瞬間、ドドンと開け放たれた雪見障子。
「姉ちゃん! 大変だっ! ああっ?」
うわ、晃っ!
「ごごご、ごめんっ、姉ちゃんっ」
「あっ、いや、そんなんじゃないっ!」
思わず身を起こして、聖弥くんを突き飛ばす。
「うげっ!」
「あああ、ごごご、ごめんなさいっ! つ、ついっ」
ううっと唸る聖弥くん。
真っ赤な顔で声を張り上げる晃。
「邪魔してごめんっ! でも、姉ちゃんっ、大変なんだっ。かなり風が強くなって、ちょっとハウスがあぶないっ。それとっ、たったいま温室のガラスが割れたっ!」
「えっ? ええっ? ええええーーーーっ?」




