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4-2 もうっ、いっぱい抱きしめてやるっ!(3)

「母さんはそれからも相変わらずだった。いろんな劇団や事務所を訪ね歩いて……」

「支援してくれるのはありがたい。しかし、それではいつまでも俺は保護者付きのキッズアイドルだ。だから、俺は母さんに言ったんだ」

『歌の仕事はしたくない。普通に学校へ行って、普通に勉強がしたい』

「もちろん、辞めるのは一時的のつもりだった。母さんが支援に走らないように、再開するときにはこっそり自分だけでやるつもりだった」

「しかし、その次に飛び出した母さんの言葉に、俺は唖然とした」

『それじゃ、ママはどうなってもいいのねっ? ママの夢、聖弥がステージに立って、その母親として隣に立つというママの夢はどうなるのっ?』

「は? って思った。母さんは、俺のことを思って支援してくれていたんじゃない。俺のためじゃなかったんだ」

「つまり俺は、母さんの『芸能人の息子の母として羨望を集めるという夢』……、いや、『野心』だな。その『野心』を実現するための……、生きた道具だったわけだ」

「荒れ狂う母さんは続けてこう言い放った」

『芸能活動を辞めるなら、名門私立高校、名門国立大学を出て、一流企業に入社するのよっ? 分かったっ?』

「それも結局は自分のためだろ。優秀な息子の母を気取って、そんな自慢ばかりをし合う金持ちご近所さんたちに羨ましいと思われたい……、ただそれだけだ」

「そんな虚栄心や損得勘定だけで生きている母さんが、俺は嫌いで嫌いでしょうがなかった。そんな母さんとふたりで食うメシが、不味くて不味くて仕方なかった」

「笑えることに、母さんが受けろと言った名門私立高校はぜんぶ不合格だったよ。そりゃそうさ。俺にもともとそんな実力はない」

「そして、俺は浪人生になった」

「でもな、母さんは顔を合わせるたびに『名門へ行け』と言うくせに、家庭教師も雇わず予備校にも通わせない……。なぜだと思う? それは近所の目を気にしていたからだ」

「そして、父さんが用意したのが、あの部屋」

『まぁ、夕食と寝るのだけは家に帰らせるが、それ以外はあの部屋でのびのびと勉強させようじゃないか。来年はきっといい結果が出るよ』

「まぁ、体よく追い出されたのさ」

「最初は母さんの顔を四六時中見なくて済むと喜んだ。しかしあの部屋へ通い続けるうちに、なぜか俺の心はどんどん陰鬱になっていったんだ」

「俺はいったい何者だ。なにをしようとしているんだと……、そんなことばかり考えてな。カーテンを開ける気にすらなれなかった」

「そんなときだ。俺は、カーテンの向こうから、ときおり透き通った歌声が聞こえてくることに気がついた」

「普通は歌が外から聞こえたら気が散って仕方ないもんなのに、なぜか、その歌はまったく俺の気分を害さなかったんだ。それどころか、俺はいつも、いつの間にかその歌声に聴き入ってしまっていた」

「不思議だったよ。その歌を聴き終わると、なぜかとても気分が軽くなるんだ」


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