4-1 なんで心配させんのよっ!(8)
「うわ、姉ちゃん、どうしたんだよ。ずぶ濡れじゃねぇか」
「あ……、晃。ごめん、ちょっとタオル取って」
「帰って来たらバッグが居間でひっくり返ってるし、どこ捜しても姉ちゃんは居ねぇし。どこ行ってたんだよ」
「ごめんね? 風が出て来たね。ハウス大丈夫かな」
「その前に、すぐシャワーしろよ。風邪ひいちまう」
足元の土間に、ぽたぽたと落ちる水滴。
制服スカートの裾が、まるで泣いているみたい。
トントンっと飛んで水滴を落として、後ろ髪をギュッと絞った。
「ほら、タオル」
心配そうな晃。
ごめんね。
わけはあとで話すから。
居間から一段下りて、晃がタオルを持った手をこちらへ伸ばした。
その瞬間、玄関の外で地面を叩く雨の音が一層激しくなって、ピカッと稲光が走った。
そのときだ。
玄関戸の模様ガラスの向こうに見えた、誰かの影。
ドン、ドン……。
続けて、その影が弱弱しく玄関戸を叩いた。
誰?
もう、いつもなら日が暮れる時間。
晃から受け取ったタオルを首に掛けて、あたしはゆっくりと玄関戸へ近づいた。
えっ? もしかして、このシルエットはっ。
「三条くんっ?」
思わず、吹っ飛ばすように戸を開けた。
すると、そこに立っていたのは……。
「日向……、実はちょっとわけがあって、今夜――」
ずぶ濡れの、三条くん。
ずいぶん古い型のセイラーバッグを手にぶら下げて、頭ふたつ高い瞳がそっとあたしを見下ろしている。
前髪からぽたぽたと雫が落ちていた。
そのぽたぽたと、あたしの目の前のゆらゆらが重なる。
「わけ? どうでもいいようなわけだったら、許さないんだから」
「え? いや、話すと長く――」
「山家さんから聞いたもん。なにしに来たのっ?」
「えっと、なにしにって……、その」
「ちょっと、頭を出しなさいっ!」
思いきり背伸びをして、肩のタオルをバッと広げた。
目を丸くした三条くんが、ちょっと首をすくめて腰を折る。
もうっ!
なによ、なによ、なによっ!
なんで戻って来たのっ!
主旋律の人生をって、せっかく見送ったのにっ!
「日向……」
「もうっ! 風邪ひいたらどうするのっ! 熱を出しても看病してあげないんだからっ!」
あたしは思わず、タオルを三条くんの頭にかぶせて、それから思いきり胸に引き寄せて抱きしめた。
「うげっ」
「うげっじゃないっ! なんにも知らせないで、どういうつもりっ? ほんとに許さないんだからっ!」
三条くんを抱きしめたまま、土間に座り込む。
すると、いままでずっと胸の奥でチクチクしていた痛みが突然、グッと喉に押し寄せた。
なんで?
なんで涙が出るの?
悲しくないのに……、辛くもないのに……。
どうしてなのか、自分でも分からなかった。
気がつくと、あたしは三条くんを抱きしめて、大声で泣いていた。
「ううっ、うううっ、うわぁぁぁーーーん!」




