表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/87

4-1 なんで心配させんのよっ!(8)

「うわ、姉ちゃん、どうしたんだよ。ずぶ濡れじゃねぇか」

「あ……、晃。ごめん、ちょっとタオル取って」

「帰って来たらバッグが居間でひっくり返ってるし、どこ捜しても姉ちゃんは居ねぇし。どこ行ってたんだよ」

「ごめんね? 風が出て来たね。ハウス大丈夫かな」

「その前に、すぐシャワーしろよ。風邪ひいちまう」

 足元の土間に、ぽたぽたと落ちる水滴。

 制服スカートの裾が、まるで泣いているみたい。

 トントンっと飛んで水滴を落として、後ろ髪をギュッと絞った。

「ほら、タオル」

 心配そうな晃。

 ごめんね。

 わけはあとで話すから。

 居間から一段下りて、晃がタオルを持った手をこちらへ伸ばした。

 その瞬間、玄関の外で地面を叩く雨の音が一層激しくなって、ピカッと稲光が走った。

 そのときだ。

 玄関戸の模様ガラスの向こうに見えた、誰かの影。

 ドン、ドン……。

 続けて、その影が弱弱しく玄関戸を叩いた。

 誰?

 もう、いつもなら日が暮れる時間。

 晃から受け取ったタオルを首に掛けて、あたしはゆっくりと玄関戸へ近づいた。

 えっ? もしかして、このシルエットはっ。

「三条くんっ?」

 思わず、吹っ飛ばすように戸を開けた。

 すると、そこに立っていたのは……。

「日向……、実はちょっとわけがあって、今夜――」

 ずぶ濡れの、三条くん。

 ずいぶん古い型のセイラーバッグを手にぶら下げて、頭ふたつ高い瞳がそっとあたしを見下ろしている。

 前髪からぽたぽたと雫が落ちていた。

 そのぽたぽたと、あたしの目の前のゆらゆらが重なる。

「わけ? どうでもいいようなわけだったら、許さないんだから」

「え? いや、話すと長く――」

「山家さんから聞いたもん。なにしに来たのっ?」

「えっと、なにしにって……、その」 

「ちょっと、頭を出しなさいっ!」

 思いきり背伸びをして、肩のタオルをバッと広げた。

 目を丸くした三条くんが、ちょっと首をすくめて腰を折る。

 もうっ! 

 なによ、なによ、なによっ!

 なんで戻って来たのっ!

 主旋律の人生をって、せっかく見送ったのにっ!

「日向……」

「もうっ! 風邪ひいたらどうするのっ! 熱を出しても看病してあげないんだからっ!」

 あたしは思わず、タオルを三条くんの頭にかぶせて、それから思いきり胸に引き寄せて抱きしめた。

「うげっ」

「うげっじゃないっ! なんにも知らせないで、どういうつもりっ? ほんとに許さないんだからっ!」

 三条くんを抱きしめたまま、土間に座り込む。

 すると、いままでずっと胸の奥でチクチクしていた痛みが突然、グッと喉に押し寄せた。

 なんで?

 なんで涙が出るの?

 悲しくないのに……、辛くもないのに……。

 どうしてなのか、自分でも分からなかった。

 気がつくと、あたしは三条くんを抱きしめて、大声で泣いていた。

「ううっ、うううっ、うわぁぁぁーーーん!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ