4-1 なんで心配させんのよっ!(7)
「それで昨日、お母さんがここへ来て、そして聖弥くんと話して……」
「聖弥くん、俺にはなんにも言わなかったけど、俺がお母さんに情報を流していたことに……、たぶん気づいていたんだと思う。お母さんが来ても驚かなかったし……」
「きっと、分かってて、敢えて、その決心を俺に話したんだ」
そっか。
でも、そこでちゃんとお母さんの気持ちを聞いて、そして思い直したんだね。
それが一番いい。
そうでないと、三条くんのお母さんがかわいそう。
三条くんのことを思うあまり、ちょっと厳しくなってるのかもだけど、でも、子どもを想わない親はいないもん。
お母さんが三条くんを大切に思っている気持ちが、ちゃんとまっすぐ彼に伝わっていないだけだもん。
これでいい。
これでいいの。
「だから、日向ちゃん……、聖弥くんのお母さんは、たぶん、日向ちゃんのこと……」
山家さんが、ゆっくりとあたしのほうを向いた。
メガネの奥の瞳が、ちょっとうるうるしている。
大丈夫だよ? 山家さん。
ちゃんと分かってるから。
これって、山家さんが悪いんじゃないもん。
「じゃ、あたしは、三条くんのお母さんからすれば、彼に付いちゃった、めっちゃ『悪い虫』だね」
あたしのせいだ。
あたしのせいで、三条くんのお母さんの夢まで壊してしまうところだった。
「ごめん。ほんとにごめん」
「大丈夫。あたし、なんとも思ってないよ? だって、山家さんの報告は仕事なんだし、お母さんだって、三条くんのことが心配だから様子を知りたかったんだし」
「日向ちゃん……」
「気にしないでね。でも、あたし、ちょっとだけ気持ちの整理が必要かも……。山家さん、教えてくれてありがと。もう、帰るね。風がもっと強くなる前にハウスの補強しないと」
山家さんが傘を貸してくれるって言ったけど、大丈夫って言って階段を駆け下りた。
空っぽになった三条くんの部屋を見て、初めて、彼が居なくて寂しいと思った。
ううん、初めてじゃないね。
いままで、何度も何度もそう思った。
声が聞きたい、隣に居て安心したい、そう思った。
でも、それは望んではいけないことだって、そう自分に言い聞かせてた。
あたしには、人を好きになる資格なんてない。
三条くんに、好きになってもらう資格なんてない。
お父さんとお母さんの幸せを壊して、弟たちの未来を壊して、三条くんのお母さんの夢まで壊してしまうところだった。
でも、彼がちゃんと納得して、お母さんのために頑張るって思い直してくれたのなら、それが一番いい。
彼は、たくさんの人に囲まれて、そのまなざしを集めて、自分を自分らしく表現するのが似合っている。
彼の人生は、とっても素敵な主旋律。
その主旋律は、『ソプラノ』のように華やかで輝かしい。
あたしは、その『ソプラノ』を、少し離れた場所で支える『アルト』がいい。
三条くんの隣に、あたしは似合わない。
彼に、イチゴ農園の仕事なんて、まったく似合わない。
これでいい。
これでいいの。
だからね? 三条くん。
あなたはあたしのことなんてほっといて、素敵な主旋律の人生をまっすぐ歩いて行って。
あたしは……、あたしは大丈夫だから。




