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1-1 親の言いなりなんかじゃないんだからっ!(3)

「あああーーっ! 聖弥くんだっ!」

 そのとき突然、大音量で教室に響き渡ったアニメ声。

 ハッと顔を上げると、小夜ちゃんが翔太の肩に手を掛けて伸び上がって叫んでいる。

 小夜ちゃんって、こういう軽いスキンシップに無頓着なのよね。

「うわっ!」

 次の瞬間、ドカンと音がして翔太が視界から消えた。

 駆け出した小夜ちゃん。

 椅子がひっくり返って、翔太が床になぎ倒される。

「せぇーいやくぅぅぅん!」

 うわぁ、久々見た、小夜タックル。

 何度このタックルで膝を擦りむいたことか。

 続けてガシャーンと椅子がひっくり返ると、小夜ちゃんが床に投げ出された翔太の背中を思いきり踏みつけて乗り越えた。

「ゔげぇっ!」

 うわー、痛そう。

 でもこれは、小夜ちゃんの平常運転。

 別に驚くことじゃない。

 ん? 

 小夜ちゃん、いま『聖弥くん』って言った?

 駆けて行った小夜ちゃんを目で追うと、彼女は廊下に飛び出して長身の男子に思いきり抱き着いている。

「ねぇねぇ、聖弥くぅん、一緒に部活動紹介に行こうよぅ。合唱部っ!」

 よく見ると、小夜ちゃんが見上げているその顔は、ちょっとばかし見覚えのある顔。

 昨日と同じで、すっごく面倒くさそう。

 そう。彼は、因縁の……、三条聖弥。

 左の頬にシップ貼ってる。バッグが当たって、ビンタが炸裂して……。

 うわ、目が合った。

 こっち見ないでっ。

 なに? 

 小夜ちゃんと友だちなの?

 すると、もしかしてあんたも、『ガオカ』の子?

 思わず目を逸らして、それから横目でチラリともう一度彼を見ると、小夜ちゃん越しの彼はまだじっとあたしを見ていた。

 あー、なんか言いたそう。

 その整った顔の不気味な無表情に負けて、あたしはちょっとだけ小さく頭を下げた。

 すると彼は、さらに面倒くさそうに小夜ちゃんへ視線を移す。

 くーっ、嫌な感じ!

「ちょっと離れろ。小夜、俺は合唱なんてやらないって言ったろ? 俺なんかより、誰かもっと仲のいいやつと一緒に行けよ」

「えー? 聖弥くんはアタシの一番の仲良しよ? ライブで聴いた聖弥くんの歌が忘れられないのっ。ね? 一緒にやろう? アタシの二番目に仲良しの彼女はもう合唱しないって言ってるから」

 振り返る小夜ちゃん。

 え? あたしって、小夜ちゃんの二番目の仲良しなの? 

 知りませんでした。

「へぇ、お前、イチゴの子と仲良しなのか」

「そうなのよぉ。小学も中学も一緒に合唱しててね? 彼女ったらいっつもアルトが専門なんだけど、声がぜんぜんイケてなくてぇ……、ん?」

 あ、なんか嫌な予感。

 小夜ストームが荒れ狂う前触れを感じる。

「ちょっと聖弥くんっ! なんで宝満日向がイチゴの子って知ってるのっ? もしかしてパンツを見たのっ?」

 いや、だからイチゴ柄とか持ってないって。

 三条くんの胸に両手を置いて、ピョンピョンと飛び跳ねる小夜ちゃん。

 その背中越しに彼はじとりとあたしを見て、それから昨日と同じように、あたしに向かって小さく手招きした。

 なによ。

 パンツなんて見せないんだから。


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