4-1 なんで心配させんのよっ!(5)
ドアを叩く。
返事はない。
どうしたの?
「三条くんっ! 三条くんっ!」
もっと激しくドアを叩いても、まったく反応は無し。
あーっ、もうっ!
思わず、ドアノブに手を掛けて思いきり引っ張った。
うわっ!
なんの抵抗もなく開いたドア。
カギが掛かっていない。
「三条くんっ! 入るよっ?」
そう声を張り上げて、あたしは部屋の中へ踏み込んだ。
「え……? どういうこと……?」
薄暗い、三条くんの部屋。
息を大きく吸って、もう一度、落ち着いて見回す。
ない。
なにもない。
ベッドも、テーブルも、マグカップも……、なんにもない。
ローファーを脱いで、そっと板張りへ上がる。
あたしが不法侵入したお風呂場は窓がしっかり閉められていて、お風呂のフタが手前の壁に立て掛けられていた。
畳の部屋にはカーペットだけが残されていて、その真ん中に、あたしが足を引っ掛けたガラステーブルの脚の跡が、ほんの少しくぼんで残っていた。
どういうこと?
先週末まで、お部屋には灯りが点いていたはずなのに。
振り返って台所のほうを見ると、流しの下の隅っこにポツンと不燃物の袋が置かれていた。
何気なく、袋の中を見る。
入っていたのは、たくさんのガラス瓶。
「これって……」
ぜんぶ、ぜんぶ、あたしのジャムの空き瓶。
そして、そのいくつかの瓶の中には、小さくてシックなメッセージカード。
『とっても美味しかったです。また楽しみにしています』
あの郵便受けに入れられていたジャムの空瓶のメッセージとまったく同じ、その文言。
どういうこと?
あれって、三条くんだったの?
『あああ、あの、ごっ、ご飯はどうしてるの?』
『メシか? 外食はあんまりしないな。買って来たものを食うことが多い。一番食うのは食パンだな』
もしかして、食パンって、あたしのジャムを食べるため?
もうっ、なんなの?
お礼を言わせてよ。
どこに行ったの?
これはなに?
引っ越し?
あたしには、ひと言もそんなこと……。
「日向ちゃん」
うわっ。
びっくりした。
突然、後ろから掛かった声。
「やっ、山家さんっ」
「ごめんよ。びっくりさせて」
開いたままのドアに手を置いて、こちらを覗き込んでいたのはお隣の山家さん。
山家さんなら、なにか知ってるかも!
「ねぇ、これ、どういうこと? 三条くん、どっか行っちゃったの?」
「すまねぇ。俺のせいだ」
「え? 山家さんの……せい?」
もっと意味が分からない。
「聖弥くん、お母さんの説得を受け入れて、昨日、家に帰って行ったよ」
「説得?」
山家さんが、ゆっくりと板張りに腰をおろして土間に足を投げ出した。
聞こえた大きなため息。
ポケットから取り出した、一枚のカード。
「俺、聖弥くんの監視役だったんだよ」
監視役?
山家さんがあたしに見せたのは、カラーで印刷されたちょっと品のいい名刺。
『株式会社三条建設 建築デザイナー 山家健人』
ええ?
待って、どういうこと?
山家さん、在宅で仕事しているなんちゃってデザイナーだって……。




