4-1 なんで心配させんのよっ!(2)
イチゴ農園がなくなっちゃったら、あたしはもうお母さんの夢の手伝いができなくなる。
お母さんに償うことも、あたしの居場所を見つけることもできなくなる。
それはイヤ。
お母さんがもし働けなくなっても、あたしが代わりにぜんぶやるもん。
高校を辞めて、農園の仕事の間に短時間のアルバイトをして、夜は居酒屋さんでも働いて……、あたしが弟たちをちゃんと高校まで行かせるもん。
「日向……」
「お母さんは心配しなくていいから。いまはとにかく手術のことだけ考えててね? あたし、帰る」
「あ、待ってっ、うっ!」
「お母さんっ!」
あたしを呼び止めたお母さんが、頭を押さえて顔をしかめた。
「お母さん、ごめんなさい。お願いだから無理しないで」
「大丈夫よ? でも日向、お願いだからあなたも無理しないで? 本当にお願い。だって三条さんが……」
え?
三条くん?
彼がどうしたの?
「だって、このままじゃ三条さんがかわいそうだもの」
かわいそう?
あたしが目を丸くすると、お母さんは眉をハの字にしてちょっと笑って、それからゆっくりとベッドに横になった。
「三条さんがね? 晃が成人するまで自分が農園を手伝うって言ってくれたの。もし晃が農園を継ぐ気持ちがなくなったら、自分がそのまま継ぎたいって」
「え? どういうこと?」
「どういうことだと思う? 日向と一緒に、農園を頑張りたいってことでしょ?」
お母さんが、床頭台に置かれていたハンカチタオルを取って、そっとあたしの頬に当てた。
「彼、表情には出さないけど、日向のことがとっても好きなのね。『農園を継ぎたい』って、『娘さんを僕にください』って意味だもの」
三条くんが、そんなこと……。
「どうしてそんなに日向のことを好きになってくれたの? って聞いたら、ニヤッとして、『可愛いですから』……、だって」
えっ?
えーっと。
そんなの冗談に決まって――。
「冗談ぽく言ってたけど、でも……、そのあとね? 『それに、日向には感謝しきれないくらい、救われましたから』って……。日向、彼になにかしたの?」
救われた?
あたし、なんにもしてないのに。
あたしは、彼になにか特別なことをしてあげたことはないし、それよりあたしのほうがたくさん救われてるもん。
正直、よく意味が分からない。
あ……、でも。
『そのお前の歌は、ちゃんと誰かを勇気づけている』
三条くんの、あの言葉。
もしかしてあれって……。
ゆらっとした窓の外の街路灯。
言葉が出ない。
「お母さん、とっても嬉しい。あんな素敵な男の子が日向のことを好きになってくれて。でもね? お母さんは、彼の人生までこの農園に縛りつけたくない」
ちょっと震えた、お母さんの唇。
「お母さんは、三条さんにも日向にも、農園なんて関係なく、素敵な恋をしてもらいたい」
分かってるよ? お母さんの気持ち。
これは、三条くんをお父さんみたいにしたくないってこと。




