表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/87

4-1 なんで心配させんのよっ!(1)

「脳……腫瘍?」

「うん。良性だから、切れば良くなるんだって」

 あのあと、小夜ちゃんはなぜかバッティングセンターへ行くと言い出して、翔太を引っ張って宝満農園をあとにした。

 卵焼きのことはすっかり忘れてたみたい。

 でも、あのふたり、けっこうお似合いかもね。

 ふたりが帰ったあと、あたしは弟たちの夕ご飯の用意をして、それからお母さんの病院へ。

 もう面会時間ギリギリ。

 病室の窓の外、ちょうど同じ高さの街路灯がちょっとだけ寂し気に灯っている。

「ただ、腫瘍ができている場所があんまり良くなくて、もしかしたら手術でぜんぶ切れないかもって。 そのときは、手術のあとも放射線治療が必要になるんだって」

 起き上がらなくていいって言ったのに、ベッドの上で半身を起こしたお母さん。

 やっぱり今日も辛そう。

「でも、心配しないでいいから。突然、死んじゃうような病気じゃないからね?」

「うん。手術はいつ? 手術が終わったらすぐ退院できるの?」

「手術は、まだはっきり決まってないけど、六月下旬だって。そして、退院は――」

 お母さんがちょっとだけ手元に視線を落として、小さく息を飲んだ。

 どうしたの?

 お母さん、ぜんぶ話して?

 あたし、もう小さな子供じゃないよ? 

「――退院は、まだ分からないの。稀にだけど、手術が成功しても手足に麻痺が残ったり、言葉がしゃべれなくなったりすることがあって、そういう場合は退院まで時間が掛かってしまうって」

 そうなんだ……。

「それでね? 農園のことなんだけど……」

「農園は心配要らないよ? あたしと晃たちでしっかりやるから!」

「うん……、でもね?」 

 分かってるよ?

 お母さんが言おうとしていること。

 でも、それじゃお母さんが夢を諦めてしまうことになっちゃうもん。

「お母さん?」

「日向、お母さんはもうこれ以上、日向やみんなに迷惑を掛けたくないの」

「でもっ」

 思わず、ベッドのお母さんに顔を寄せた。

 お母さんは静かに微笑んでいる。

「あのお家はしばらくはそのままで、農園だけ閉めてしまおうと思う」

「お母さん……」

「難しい話だけど、イチゴに切り替えてからずっと借り重ねてきたお金、すこしずつ返しているけど、もう……、無理かもしれない」

 苦笑いのお母さん。

 それも知ってる。

 どれくらいのお金を借りているのかは知らないけど。

「大丈夫。あたし、高校辞めて働くから。お昼は農園をやって、夜は――」

「ありがとね……、日向。でも、それはあなたがすることじゃない」

 思わず、上を見上げた。

 天井がゆらっとする。

 お母さんが、そっとあたしの手を握ったのが分かった。

「もし、お金が返せなくなったら、あのお家と土地を代わりにあげる約束になってるから、なんにも心配は要らない」

「あたしは……、あたしは……」

「吉松のおじさんにも相談したけど、もう頑張らなくていいんじゃないかって……」

 突然、頬を暖かい雫が伝った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ