1-1 親の言いなりなんかじゃないんだからっ!(2)
真後ろでキンキン鳴ってるアニメ声がとうとうガマンできなくなったらしく、翔太がはぁーっと大きなため息をついて、グイッと後ろを振り返る。
「鷺田川、いい加減、俺のことジャガイモって言うのはやめろ。おれはそんなにデコボコしてねぇ」
「えー? アタシにはあんたはジャガイモにしか見えないのよ。だからそう呼ぶしかないじゃない」
「さっさと部活動紹介に行けばいいだろ。いちいち俺たちに構うな」
ずっと野球をやっている翔太は、小学校のときから変わらずこの坊主頭。
転校してきた小夜ちゃんは、初めて会ったときにこの翔太の頭がジャガイモに見えたらしく、それ以来ずっとこの呼び方。
「ジャガイモがなんか偉そうに言ってる。あんたはまた野球なんでしょ? 飽きないわね」
「うるせぇなぁ。だいたい、なんでお前この県立に来たんだよ。『ガオカ』のやつはみんな名門私立に行くんじゃねぇのか?」
「ふん。アタシがどの高校に行こうと勝手でしょ?」
「結局、どこも受からなかったんだろ」
「うるさいっ」
彼女は『ガオカ』の住人。
『ガオカ』っていうのは、あたしたちの街のすぐ隣にある新興住宅街、『星降が丘』のこと。
もちろん、この『ガオカ』って言い方は、『星降が丘』に住んでいる人たちも使う呼び方だけど、『ガオカ』ができる前からずっとこの街に住んでいる人たちが言うときは、実はちょっとだけ違う意味が入っている。
『いやぁ、あいつは「ガオカ」だし』
『ほんと、そういうとこが「ガオカ」なんだよな』
こういう感じ。
実を言うと、あたしの家、『宝満農園』は、この『星降が丘』の人たちからあまり良く思われていない。
「それからなぁ、日向を『ジャム子』って呼ぶのもやめてやれよ。もう高校生だぞ? もうちょっとマシな言い方があるだろ」
「へ? そう? アタシはサイコーにイケてると思うんだけど。ジャムにしかならない無名イチゴ作りに誇りを持ってるって素敵じゃない? きっとパンツまでイチゴ柄に違いないわ」
いや、だから、イチゴ柄なんて持ってません。
でも、ジャムの話はそんなに間違ってない。
うちはひと粒いくらで売られるような、有名なブランドのイチゴは作ってない。
でもね? 愛情はほかの農家さんには負けてない自信がある。
ひと粒ひと粒を大事にして、さらに、お母さんが素敵な歌を毎日歌って聴かせてるから、ブランドイチゴに負けないくらい美味しいもん。
あたしも一緒に歌ってる。
だから合唱部を辞めても、ぜんぜん寂しくなかった。
でもまぁ、こんな話をしても、小夜ちゃんだけじゃなくて、あの『星降が丘』で暮らしている人たちには、たぶん分かってもらえないんじゃないかな。
「なぁ、日向。もう、『ジャム子』って言われるの嫌だろ? ハッキリ言ったほうがいいんじゃねぇか?」
そりゃぁ、もうちょっと可愛いあだ名で呼んでくれたほうが嬉しいかなって思うけど、まぁ、小夜ちゃんだし。仕方ありません。はい。




