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3-2 それって、もしかしてプロポーズっ?(5)

「お母さんの夢、知ってるか? 晃は、『お姉ちゃんが農園を継いでくれるような素敵な彼氏を連れて来てくれること』って言ってたが」

 うわ、それは、一昨年の初詣のとき、お母さんが冗談で言ったお願い事よっ?

 冗談なのっ、冗談。

「ま、それは冗談だろうけどな。お母さんの夢は、合唱のステージで一生懸命歌う日向を、客席から応援することだってさ」

「え? お母さんが、そんなことを?」

「うん。もちろん、お父さんの夢を実現させたいってのも、夢のひとつだって言ってた。でもそれは、自分だけの夢で、それを日向たちには押しつけたくないって」

 お母さん……。

「本当は、日向に農園の手伝いをさせたくない、ありのまま、高校生らしく友だちと笑い合って、思いきり歌って、たくさん素敵な思い出を作って欲しいって……、そう言ってた」

 だめだ。

 ちょっと目の前がゆらゆらしてる。

「日向も、弟たちも、お母さんも……、宝満家のみんなは、自分の夢が誰かの幸せに繋がっている。誰かの幸せを願うことが、そのまま自分の夢になっている……。俺んちは逆だ」

 それは、三条くんのお母さんのことを言ってるの?

 まだ、一度もちゃんと話してくれたことがないよね。

 三条くんのお母さんって、どんな人なの? 

「お母さんが実現したいと願っている『お父さんの夢』も、これはお父さんを思うからこそであって、お母さんが自身へのなんらかの対価を欲しているものじゃない」

 そうだ。

 お父さんの夢は、家族のための夢だった。

 そして、その果たせなかった夢を、今度はお母さんがお父さんのために実現しようと頑張っている。

 あたしは、そのお母さんが少しでも楽ができるようにって、そう思っているだけ。

「結局、思えば俺の夢は、俺の意地や功名心のためだけの夢だ。それも、己の実力を示して他者を見返してやりたいという、対価を求める夢だ。ただただ対価を求める夢は、純粋な夢じゃない。それは……、野心だ」

 そんな難しいこと、あたし、考えたこともない。

 あたしはただ、あたしのせいで壊れてしまった誰かの夢を、できるだけ元どおりにできないかってもがいているだけ。 

 あたしが、お父さんの夢も、お母さんの夢も壊してしまった。

 あたしは、あたしが嫌い。

 あたしなんて、もともとここに居る価値もない。

 だから、あたしはここに居させてもらうために、その罪を償って許してもらうために、それだけのために頑張っている。

 だから、あたしが一番、自分のことしか考えていない。

 あたしは、三条くんが思っているような女の子じゃない。

「俺も、誰かの幸せを願う夢を持ちたい。誰かの幸せに繋がっている夢が、俺の夢だと胸を張りたい。それを、お前たちを見て思った」

 そうなんだ。

 だから、ずっとお手伝いに来てくれてたんだ。

「このイチゴは、お前そのものだ。そして俺は……、俺は、この名もないイチゴが好きだ」

 えっ?

 いやいや、勘違いしちゃダメ。

 彼が好きだと言ったのはイチゴのことだ。

 小夜ちゃんが、ぽかーんと口を開けている。

 こんなに熱っぽく話す三条くん、初めて見た。

「いままで俺が持っていた再デビューの夢は、単に自己満足のため、己の実力を世に示すためだけの夢だった。でも、お前に会って、俺の夢が変わった」

 ん?

「俺は……、このイチゴのようにいつもありのままで居るお前を……、幸せにしたい」

 へ?

 ちょっと待って。それって……。

 そっとあたしに歩み寄る三条くん。

 彼の澄んだ瞳が、優しくあたしを見下ろした。

「ずっとお前のそばに居て、お前を幸せにしたい」

 ええっ? えええっ? ええええーーーーっ?


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