3-2 それって、もしかしてプロポーズっ?(2)
「お母さん、ちょっと具合が悪いみたいだ。サクランボは明日にしようってさ。今日はこのまま帰ろう」
「ええっ? お母さん、大丈夫かな」
「頭が痛いらしい。俺たちが居たら、余計に負担を掛ける。明日は検査でさらに大変だろうから、今日はこのまま帰るのがお母さんのためだろうな」
あああ、やっぱり毎日来なくていいっていうのは、そういうことだったのかな。
あたし、お母さんに余計な負担を掛けてたのかも。
「あ、でも、お財布どうしよう。返したほうがいいよね」
「少し眠るって言ってたから、明日でいいんじゃないか? 落とすなよ? 預かってやろうか?」
「落とさないもん。あれからすごく気をつけてるんだから。あ、そうそう、あのね? さっき知ったんだけど、あのときお金拾ってくれた人って、実は――」
そう言いながら、あたしがソファーから立ち上がると、次の瞬間、ドドンッっと音がして、三条くんが視界から消えた。
「うわっ」
「せぇいやくぅぅぅん!」
おおっ、スライド小夜タックル!
絡みついた小夜ちゃんごとゴロゴロンとタイルカーペットに転がる三条くん。
エントランスに居た人たちが一斉にこちらを見る。
「小夜かっ? お前、駅前のスムージーはどうしたっ」
「行って来たわ! 美味しかったぁ! 聖弥くん、ありがとっ」
「日向、なんでこいつがここに居るんだ」
えーっと。
「ちょっとぉぉ、聖弥くんっ! 聖弥くんこそ、なんでここに居るのっ? えっ? もしかして、ジャム子と一緒なのぉぉぉ?」
「大きな声を出すなっ。農園の手伝いのついでだ。いま、日向のお母さんがここに入院してるんでな」
「ジャム子のお母さんが入院? ハッ?」
あ、また嫌な予感。
三条くん、さっきからずっとあたしのことを『日向』って呼んでることに気がついてないみたい。
病室でお母さんと話している間も、ずっとそう呼んでたのかな。
「な……、なんで、聖弥くんが、ジャム子を……、『日向』なんて……」
「あ? 俺は、日向のお母さん公認の宝満農園スタッフだ。いまのところは吉松翔太の代わりだな。今日もこれから作業だ」
は?
なに? 公認って。
そんな話まったく聞いてないし。
えええ? もしかして、お母さんの話って、そのことだったのっ?
「まぁ、そういうことだから、悪いが小夜、今日はお茶にもお散歩にも行けないからな? 日向、行くぞ」
「え? あ、うん」
うわ、小夜ちゃん、すごい顔っ。
怖い怖い怖いっ!
「じゃぁー、むぅー、こぉぉーーっ!」
「ひっ?」
「どういうことっ? どういうことっ? どういうことなのよぉぉぉぉ!」
「ほんとについてくんのか?」
「当然よっ。聖弥くんをコキ使うなんて、どんな悪徳農園なのか、この目でしかと確かめてやるわっ!」
コキ使ってなんかいません。
なんですか、悪徳農園って。
病院を出ると、小夜ちゃんはどうしてもついて行くといって、あたしたちふたりの後ろについて歩き始めた。
どうしたものかと並んで歩く三条くんを見上げたけど、彼はいつもの無表情のまま。まったく気にしていない様子。
でもまぁ、最盛期もあと少しで終わり。
これを過ぎれば三条くんも前の生活に戻ってそんなに一緒に居ることも無くなるだろうし、そしたら小夜ちゃんもヤキモチ妬かなくなるはずだよね。
ヤキモチ?
うわ、別にあたしと三条くんは、小夜ちゃんからヤキモチを妬かれるような関係じゃないんだけど。




