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2-4 ぜんぶ、ぜんぶ、あたしのせいだ!(5)

「よし、歌うぞ」

 ハッとして、無意識に彼の胸に埋めていた顔を離した。

 すぐ目の前にある、三条くんの真剣な顔。

「お前のせいで親父さんが死んだっていうんなら、それは親父さんがお前のためを思って一生懸命頑張ったことで死んだってことだろ」

「え?」

「そりゃ心残りはあるかも知れないが、お前のために死んだんだから親父さんは本望だろうよ」

 なにを言ってるの? 三条くん。

 あたしのせいなのに、それをお父さんは喜んでいるっていうの?

 まっすぐあたしを見下ろす、彼の澄んだ瞳。

 だめ。

 もう、目の前のゆらゆらが止まらない……。

「まぁ、いまは思いきり自己嫌悪に陥ってろ。でも、がむしゃらに自分に素直に歌い続けていたら、きっといつかその嫌悪は溶けてなくなる。そして、そのお前の歌は――」

 三条くん、あたし、素直になんて歌えない。

 ごめんね? ホントにゴメン……。

「――そのお前の歌は、ちゃんと誰かを勇気づけている」

 突然、息が詰まった。

 勇気づけている?

 誰を?

 あたしがいったい、誰を勇気づけてるの?

「さぁ、あの歌、一緒に歌うぞ」

 三条くんが大きく息を吸った。

 もう一度、その胸に頬を寄せる。

「♪ いま~」

 素敵な声。

 胸の振動が頬に伝わる。

 あたしを勇気づける、この歌声。

 あたしは自分を否定した。

 そして彼は、自分を否定したあたしを否定しなかった。

 この歌声は、その否定した自分もぜんぶひっくるめて、それでいいって勇気づけてくれている。

 でもいまは一緒に歌えない。

 声が出ない。

 ごめん、三条くん。

 あたしはもっと強く、彼の胸に頬を埋めた。

 もう少し、このまま……、このままで居させて。


「は? なんで三条がここに居るんだよ」

 土間に入ってきた翔太が、作業をしている三条くんに突っ掛かった。

 外はもう夕暮れ。

 翔太と翔太のお父さんが、保育園へ光輝を迎えに行って連れて帰って来てくれた。そのまま、箱詰めの手伝いをしてくれるつもりみたい。

「なんだお前、野球部だろ。練習行かなくていいのかよ」

 三条くん、今日、学校サボったんだって。

 あれから彼は、あたしと一緒に汗だくになって収穫をやってくれた。お昼は買い物にもついてきてくれて、それからお母さんの病院にも一緒に行ってくれて。

 お母さん、三条くんのことテレビで見たことあるって言ってた。

 まだ小さかったけど、面影残ってるって。

 あたしはぜんぜん知らないんだけど。

「日向ちゃん、お母さん、どうだった?」

 翔太のお父さん、ほんとによくしてくれる。

 お母さんの小学校のときからのお友だちなんだって。

「おじさん、光輝のお迎え、ありがとね。お母さんは当分安静だって。検査は連休明けになるって」

「そうか。じゃ、しばらくなにも分からないんだな」

 そう。すごく心配。

 最初は熱中症じゃないかって言ってたけど、どうもそんな単純なものじゃないらしい。

 頭が痛いみたいで、ちょっと特殊なお薬を使って頭の中を調べる必要があるんだって、お医者さんが説明してくれた。

「おおー、晃、しっかり手伝ってるな」 

「おじさん、翔太兄ちゃん、光輝の迎えありがとー。あっ、聖弥さん、さっきのぶん、土間の奥に移動させたぜ。こっちは終わった」

 翔太たちに挨拶をして、カートの車輪止めを掛けながら三条くんに声を掛けた晃。

 あたしの隣で翔太と睨み合っていた三条くんが、くるりと晃へ顔を向ける。

「おっ? はえーな。よし、こっちも手伝え」

「うん、チャッチャとやっちまおう」

 なんか、晃と三条くんの連携プレーがすごい。

 晃、昨日は三条くんをあんなに目の敵にしてたのにね。


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