2-4 ぜんぶ、ぜんぶ、あたしのせいだ!(4)
ハウスの入口。
そこに居たのは、制服姿の彼。
いま、この世で一番この顔を見られたくない、彼。
「泣いてるのか」
「泣いてないもん」
「お前、我慢してるだろ」
「我慢してないもん」
「昨日、いろいろ晃から聞いた。お前が自己嫌悪するようなことはなにもない」
「自己嫌悪なんかしてないもん」
ゆっくり近づく彼。
両側のイチゴの葉っぱが、かすかに揺れた。
頭ふたつ高い彼があたしを見下ろす。
「自己嫌悪なんか――」
あたし、どんな顔してる?
お願い、見ないで。
雫が勝手に頬を伝っていく。
目の前の、彼の胸。
急に近くなって、ふわりとあたしの頬を包み込んだ。
「お前、自分のせいで親父さんが死んだと思ってんだろ」
「思ってないもん」
「晃が言ってたぞ? 一月十五日、お前の誕生日は『イチゴの日』なんだってな。温室の隅にちょこっとだけあるイチゴ、あれ、親父さんがそれを記念して植えたイチゴなんだろ?」
庭とアパートとの間。
お母さんとあたしの大切な温室。
入ってすぐ右側には、お父さんが植えた最初の株から苗をとった、その命を受け継いでいるイチゴがちょこんと植わっている。
このイチゴだけは、お父さんがやっていたように、ほとんど農薬を使わない。
ありのままがいいって、日向もこのイチゴのようにありのままで居なさいって、そうお父さんは言ってた。
ほぼ無農薬だから、ところどころ白けた形の悪いイチゴしか生らないけど。
あたしの誕生日が『イチゴの日』だったから、お父さんはあのイチゴを植えた。
そして、あたしが保育園のとき、画用紙いっぱいに描いたあのイチゴの絵を見て、お父さんはイチゴ農園をやろうと決めた。
養鶏場兼野菜農家は、曾お爺ちゃんのときからの我が家の家業だった。
それをイチゴ農園に切り替えるって聞いて、親戚はみんな反対した。
それで、親戚とは疎遠になって、お父さんとお母さんはぜんぶ、自分たちだけでやらないといけなくなった。
『日向、イチゴは好きかい?』
『うんっ、だいすきっ。いっぱいたべたいっ』
お父さんは、あたしの喜ぶ顔が見たくてイチゴ農園を始めた。
でも、毎日毎日、すごく大変で、すぐにはお金にならなくて、お父さんは夜に別のアルバイトもしていたらしい。
そして、あの事故は起こった。
居眠り運転だったって。
イチゴ農園を始めなければ、お父さんは死ななかった。
あたしがイチゴが好きだって言わなければ、あたしがイチゴの日に生まれなければ、お父さんはイチゴ農園を始めなかった。
ぜんぶ、ぜんぶ、ぜんぶ、あたしのせいだ。
このことは、お父さんが亡くなってから、お母さんから聞いた。
あたしのせいだって言ったら、お母さんはそれは違うって言って、少し怒った。
お父さんの夢。
『いつか、日向の名前がついた新しいイチゴを作りたい』
お父さんは、そのためにたくさん働いて、たくさん勉強しないとって、毎日、口癖のように言っていたって。
その、お父さんの夢を消してしまいたくない、途絶えさせたくないって言って、お母さんはひとりでイチゴ農園を続ける決心をした。
だからあたしは、この子たちが嫌い。
自分のことも、大嫌い。
この世界で、あたしのことを一番嫌いなのは、たぶんあたし。




