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プロローグ イチゴのパンツなんて履いてません!(4)

 廊下はもう、朱色一色。

 いつの間にか、窓の外では今日も一日頑張ったお日さまが帰り支度をしていた。

 ぴょんと伸び上がって、肩のバッグを掛け直す。

 重たいバッグ。

 これがあんな勢いで当たっちゃったんだから、きっと三条くんはすごく痛かっただろうな。

 翔太はあたしの攻撃には慣れているから、あんなの軽くかわして逆にあたしの頭をぺチリと叩いてくるくらいなんだけど、まさかその向こうに三条くんが居たなんて。

 なんでよけるのって翔太にいっぱい文句言いたいけど、でも、やっぱり投げたあたしが悪い。

 ぜんぶ、あたしのせいだ。

 お母さんに話したらきっと、「あーあ、可愛らしい女の子になるって言ってたのにね」って、すごくがっかりするだろうな。

 そんな感じでちょっと落ち込みながら職員室の先の角を曲がると、廊下のずっと向こうに靴箱が並んだ昇降口が見えた。

 吹抜けになった高い窓から淡い朱色がすーっと降りて、廊下に靴箱の影を長く長く落としている。

 とぼとぼと歩きながらふと視線を上げると、その靴箱の影の横で、スマホで話している背の高い男の子の姿が見えた。

 ハッとした。

 先に保健室を出て行った、三条くん。

 靴箱に寄り掛かって、真剣な顔で誰かと通話をしている。

 彼もハッとあたしに気がついて、面倒くさそうに顔をあさってのほうへ向けた。

 ちょっとだけ見えた彼の頬。

 さっきよりもっと赤くなって、思った以上に腫れがひどくなっていた。

 思わず駆け出す。

 すると彼はもっと面倒くさそうな顔になって、通話をやめたスマホをポケットに入れながら靴箱に手を入れた。

「あああ、あの、ちょっと待って!」

 動きを止めた彼。

 聞こえたのは、はぁーっと大きなため息。

 あたしは構わずそのまま彼のすぐそばまで駆け寄って、それからビシッと背筋を伸ばしてキヲツケをした。

 足元のスノコがガタンと鳴る。

「あ、あの、三条くんっ! あたし、やっぱりお母さんに話すっ」

「あんまり気安く呼ぶな。俺に関わるとろくなことがないぞ。いいか、絶対に親には言うなよ」

「でっ、でもね? そのままお家に帰ってお父さんお母さんがその顔見たら、きっとそれどうしたのって――」

「そんなのうまく取り繕うからいい。お前はなにも気にするな」

「で、でも」

 思わず下を向く。

 彼が揃えて投げたローファーが、パタンとコンクリートを鳴らした。

 足元では、長くなった彼とあたしの影が、朱色をバックにして重なっている。

 その影を追ってすっと目を上げると、あたしはちょっと肩をすぼめて彼の背中に近寄った。

「あああ、あの、ほんと、ごめんなさい。それならね? あたし、なにか三条くんのためにできることない? お詫びというか、罰というか」

「は?」

 あたしの言葉を聞いて振り返った彼は、もうこれ以上ないくらいの呆れ顔。

「な、なにかない?」

 グッと背伸びをして、彼に迫る。

 ずいぶん背が高い。

 頭ふたつぶんくらい違うかも。

「あのなぁ……、お前、そんな小学生みたいなこと――」

「あ、あの、なんでもいいの。あたし、なんかお詫びしたい。たとえばっ、そのバッグを三条くんの家まで運ぶとか、なんかそんなのっ」

「お前なぁ……」

 吹抜けになっている昇降口の天井。

 ローファーのつま先をトントンとしながらすーっとその天井を見上げた彼は、なにやら少し考えたあと、それからゆっくりとあたしを見下ろした。

「それなら……」

 彼が小さく手招きする。

 なに? ナイショ話?

 なんだろうと思って、あたしはもっと背伸びをして彼に顔を近づけた。

 顔が近い。

 お人形さんみたいな、キレイな瞳。

 すると、彼はそのキレイな瞳ですごく真剣にあたしを見つめて、それからそっとその言葉を囁いた。

「じゃあ、パンツ見せろよ。イチゴ柄の」

「はぁぁぁぁぁ?」


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