2-3 あたしのカレー、いっぱい食べて!(4)
「俺は……」
そういえば、晃の夢なんて聞いたことないな。
小学校では野球をやっていた。
お父さんとよくキャッチボールしてたっけ。
中学でも続けるんだろうって思っていたのに、いまのところなんの部活にも入らないで、まっすぐ帰って来て農園の手伝いをしてくれている。
『俺は姉ちゃんと一緒に、宝満園芸部で活動するよ』
入学式のあと、お母さんに野球頑張ってって言われたときに、晃はすぐそう返した。
お母さん、晃の言葉を聞いてちょっとうるうるしてたな。
「俺は……、俺の夢は、この農園をもっと立派にして、お母さんを楽させることだ」
えっ?
ちょっと、思わずキュンってなっちゃったじゃない。
中学一年の晃が、そんなこと考えてくれてたなんて……、ちょっと嬉しすぎる。
ゆっくりと、三人を見回す三条くん。
ほんのちょっと沈黙があって、それから三条くんがもう一度、晃へ顔を向けた。
「ふぅん……、お母さんのため、お姉ちゃんのため……、みんなずいぶん家族思いなんだな。お前ら、自分のための夢はないのか? 自分はこうなりたい、自分はこれをやり遂げたい……、とかいう夢は」
まぁ、我が家の家族思いは、ちょっと特別だからね。
特に、お父さんが居なくなってからは、その思いがすごく強くなったし……。
はーっとため息をついた晃が、ジロリと三条くんを睨む。
「そういう兄さんはなんか夢があんのか? すげぇ夢なんだろうな」
「俺の夢か?」
三条くんの夢って、なんだろう。
コップの麦茶をひと口飲んで、三条くんがちょっとだけ難しい顔をした。
「お前らには少し難しいかもしれんが……、俺は小学校までキッズ歌手やっててテレビに出てたんだ。でもな? あるときそれが、実は自分の実力でやれてたんじゃないってことに気がついちまってな」
実力じゃない?
あんなに歌が上手なのに?
みんなスプーンを止めて、三条くんを見ている。
「だから俺の夢は、自分の実力だけで、もう一度ステージに立つことだ。子ども騙しじゃない、本物の歌をみんなに聴かせて、俺の実力を認めさせることだ」
「ふぅん」
あんまり興味がない様子の晃。
その顔を見て、三条くんがちょっとだけニヤリとした。
「晃、実は最近、もうひとつ夢が増えてな」
そう言って、パッとあたしへ瞳を向けた三条くん。
え? なに?
「もうひとつの夢は、お前の姉ちゃんとユニットを組んで、一緒にデビューすることだ」
うぐっ!
唐揚げが喉にっ!
晃が「ハァ?」みたいな顔をしている。
いやいやいや、あたしはまったく望んでないからっ。
「姉ちゃん……、そういうことだったのか」
「うぐぐっ、ちっ、違うっ。あたしちゃんと断ったもんっ。あたしの夢は晃と同じっ!」
「しかし、姉ちゃん……、アイドルを目指すには身長もルックスも足りてねぇぜ……」
しっ、失礼なっ。
まぁ、でも確かに、背はちっちゃいし、ルックスもぜんぜんだし。
あたしの顔が面白かったのか、陽介と光輝がおなかを押さえてゲラゲラ笑っている。
もうっ、意味なんて分かってないくせに。




