2-3 あたしのカレー、いっぱい食べて!(2)
まぁ、もともとけっこうズボラな性格ではあるけど、清潔感がないようには思われたくない。
彼はあんな感じだけどお部屋はかなり片付いてたし、たぶんけっこう几帳面な性格なんだと思う。
お料理、いつもどおりに作っているけど、雑な女の子に見られないかな。
そんなことを考えながら、揚がった唐揚げをテーブルに移動して鍋の火を止めると、突然、居間のほうからピアノの音が聞こえ始めた。
縁側に置いてあるアップライトピアノ。
あたしが保育園のとき、まだ元気だったお婆ちゃんがあたしのために買ってくれた。
小学校四年生までは習ってたんだけどね。
合唱を始めてからは、ずっとお休みしてるの。
辞めたんじゃないよ? お休み中。
だから、あのアップライトピアノはもう何年もフタを開けられないまま、ずっと縁側の端で寂しそうにしていた。
久しぶりに音を聞いたな。三条くんが弾いてるのね。
この曲は知ってる。
最後の発表会で弾いた、『糸つむぎの歌』。
くるくると糸巻きを回すような旋律がとっても楽しくて、何度も何度も弾いたっけ。
三条くんが弾いているところ、また見てみたい。
いや、ちょっとだけよ? ちょっとだけ。
そうして、居間から聞こえるピアノの音が気になって目を向けていると、突然、晃が台所へ入って来た。
うわっ、なによっ。
思いきりバチンと目が合う。
「なんだよ、姉ちゃん。そんなに彼氏が気になるのか?」
「彼氏じゃないもん」
「姉ちゃん、まぁ、いけすかねぇが、あいつはそれなりにすげぇやつみたいだな」
「は?」
腕組みをして、台所へ入って来た晃。眉の間にこれでもかとシワを寄せている。
なんなのよ。
「姉ちゃん、知ってるんだろ? あいつ、駅前に支店のビルがある『三条建設』のひとり息子なんだってな。家は『ガオカ』のてっぺん、すげぇ豪邸だ」
「それがどうしたの? お父さんが社長さんっていうのは知ってるけど、あたしには関係ないもん」
「それに、頭もいい。あのわけの分からん方程式ってやつを、ものの数秒で解いちまう天才的頭脳」
「ふうん、そうなんだ。どうでもいいけど。さ、もうすぐできるからお皿とか運んで?」
「まぁ、母性が強い姉ちゃんだが、意外とああいう歳上の彼氏のほうがいいかもな」
「うん?」
なにか変なことを言ったなと思ったけど、振り返ると、もう晃は食器を抱えて居間のほうへ行ってしまっていた。あたしもサッとエプロンを外して晃を追う。
「すごぉい! セイヤ兄ちゃん、ぼくにピアノおしえてっ!」
「ねぇねぇ、あにめのひいて。セイヤにいたん」
居間に入ると、陽介と光輝がピアノに向かっている三条くんの両側に張り付いて騒いでいた。
「ねぇ、セイヤ兄ちゃんって、ピアノのせんせいになるの?」
「あにめのひいて」
「いやぁ、俺は先生とかは……、でも、なりたいものはあるぞ?」
「え? なになにっ?」
え?
三条くんが笑ってる。
うわー、彼、あんな顔で笑うんだ。
陽介と光輝の顔を覗き込んで、すごく優しい、素敵な笑顔。
ふぅん。
ん? んんっ?
いやいやいや、彼はあの三条聖弥なんだから。
あれは子供向けの営業スマイル!
元芸能人の笑顔に騙されてはいけません。




