2-2 もしかしてアンタってマニアなの?(3)
「彼女の母親は、支払いを娘にさせるほどの多忙さです。彼女は母親に心配を掛けたくないんです。学校に対しても同様です」
うわー、確かに心配を掛けたくないのはそうだけど……、それを三条くんに言わせてしまうなんて。
お巡りさんが、運転免許証を三条くんに返しながら、ちょっと笑顔を見せた。
「そういうことか。それなら、キミのお父さんと電話で話をさせてもらえるかい? わざわざ来てもらわなくてもいいから」
「はい。よろしくお願いします」
三条くんがスマホを取り出す。
画面をタップしながら、チラリとあたしを見た彼。
数回のコールのあと、すごく渋いバリトンの声がスピーカーから漏れた。
『珍しいな。お前から電話してくるなんて』
「父さん、ちょっと頼みが――」
かくかくしかじかと、「友だちが困っている」とか言って三条くんが事情を説明している間、お巡りさんはじっとあたしの顔を見ていた。
まだ疑ってるのかな。
「そういうことだから、ちょっと身元保証してくれよ」
『お前、その子って、もしかして』
「ああ、例のイチゴの子だ」
『がははは! お前の顔にバッグ投げつけた子だな』
えええ?
三条くん、親には話さないって言ってたのに、お父さん知ってるじゃないっ。
それから、三条くんはその通話をお巡りさんと代わった。
ほんの数分。
「それでは、書類には社長さんの名前を書かせてもらいますから、よろしくお願いします」
そう言って通話を終えると、お巡りさんは納得した様子で三条くんにスマホを返して、それからパッとあたしにニコニコ顔を向けた。
「じゃ、キミの身元は彼氏さんのお父さんが証明してくれたから、このお金、このまま持って帰っていいよ。受領書にサインして」
もう、涙が出そう。
もう一度、三条くんを見上げた。
あ、まだ怖い顔してる。
「お前、拾ってくれたやつに礼しないといけないだろ」
あああ、そうだった。
もう、あたし完全にダメ子になってるな。
「あの、お巡りさん、拾ってくれた人って――」
「お礼がしたいの? でもね、拾ってくれた人が、『名前も連絡先も教えなくていい』って手続きを希望したから、僕らは教えてあげられないんだ。ごめんね」
そうなんだ。
つい、また三条くんを見上げた。
「いちいち俺の顔を見るな」
「ごっ、ごめんなさい」
それを見て、ちょっと苦笑いしたお巡りさん。
「おいおい、ケンカしないで。まぁ、いつかキミが拾う側になったときに、この拾ってくれた人と同じ優しい気持ちで届け出をしてくれれば、それがその人への恩返しになるからね」
「はいっ!」
思わず立ち上がる。
あたしは封筒を胸に抱き寄せて、それから深々と頭を下げた。
交番を出て見上げると、もう空はキレイな朱色。
「あああ、あの、これ」
あたしは封筒から納品書を引き抜いて、お金を封筒ごと三条くんに差し出した。
「立て替えてくれてありがとっ。それとっ、お父さんにもお礼を言っといてっ」
「え? ああ」
三条くんは、ちょっと複雑な表情。
もしかして、あんまりお父さんと話したくなかったのかも。
「あああ、あのっ、バッグ投げつけてしまったこと、なんでお父さん知ってたの? 三条くん、親には話すなって……」
「あ?」
やばいっ。
余計なことを口走ってしまった!
うわぁ、怖いよぅ。




