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2-1 大事なアレを失くしちゃった!(3)

 そのまま準備室の中を通って、それから音楽室へ入る扉をそっと開けた。

 うわ、なんで居るの?

 そこには、想像もしていなかった……、彼の姿。

 グランドピアノに向かっている、三条聖弥くん。

 その隣には、三条くんの手元を覗き込みながら、なにか教えている様子の高橋先生。

 え? 

 三条くん、ピアノ弾けるんだ。すごい。

 でも、なんかちょっと難しい話。

 コードがどうとか……、和音の話かな。

「そうだね。この進行でちょっとだけジャズ風のテイストを足すなら、ここにオーギュメンテッドを挟むといいよ」

「なるほど……、ん?」

 あ、やば。

 ゴチッ!

 痛ぁぁーーいっ!

 顔を引っ込めた瞬間、ドア枠に思いきりぶつかった頬。

 思わず両手で頬を押さえてしゃがみ込む。

 ううう……。

 そして、じわっと目を開けると……。

「お前。こんなとこでなにしてんだ」

 うわ、出た。

 子供に話し掛けるみたいに、膝をついてあたしの顔を覗き込んでいる三条くん。

 ズバッと立ち上がる。

「あああ、あたしはっ、そのっ、小夜ちゃんの代わりに掃除当番をっ」

「え? お前が代わりに来たのか……。あー」

 なに?

 どういうこと?

「そりゃすまなかったな。小夜に用事を作らせたのは……、俺だ」

「はぁ?」


「こんなもんでいいか。けっこう砂が上がるんだな。渡り廊下のせいか」

 小夜ちゃんが言った『もうひとりの委員』は、三条くんだった。

 四組の音楽委員だって。

 小夜ちゃんは、一緒に掃除する当番が三条くんだって知らなかったみたい。

 彼の話によると、小夜ちゃんの用事はネイルサロン。

 今日の三組の当番が小夜ちゃんだという情報を入手した三条くんが、彼女に駅前のネイルサロンの無料お試し券をあげたんだとか。

 なんでそんなもの持ってるのよ。

「小夜()けのために、いつもそのテのやつをいくつか持ち歩いてるんだ。あいつ、一緒にお茶行こうとか言ってしつこいし」

 なるほど。

 どうも、そのネイルサロンは三条くんのお父さんの友だちのお店らしい。

「先に出て。あたし、音楽室のカギ、職員室に返してくる。三条くん、先に帰っていいよ」

 ピアノの上のカギに目をやりながら、「さぁ、行って行って」と三条くんに手を振ると、彼はバッグのストラップに手を伸ばしたところで、突然動きを止めた。

 え? なに?

 彼がすっと視線を上げる。

「お前、『翼をください』って歌、知ってるよな」

 はい。もちろん知ってますとも。

 お父さんとお母さんが大好きな歌で、あたしも温室で水やりするときによく歌ってるし。

 答えずにいるあたしの目をじっと見つめると、それから三条くんはバッグに伸ばした手を引っ込めて、ゆっくりとピアノのほうへ歩き出した。

 カタンとピアノの椅子が引かれる。

 なんなのよ。

 あたし、箱屋さんへ支払いに行かないといけないんだけど。


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