2-1 大事なアレを失くしちゃった!(2)
「ジャム子っ、あんたいまから、アタシの代わりに音楽室の掃除に行くのよっ」
「……はい?」
今日は特別教室の清掃日。
週に二回、図書室や音楽室などの特別教室を、放課後にそれぞれの委員が清掃することになっている。
小夜ちゃんは、音楽委員。
あたしは農園の手伝いがあるので、先生が委員から外してくれた。
「アタシを差し置いて聖弥くんと歌の話をした罰よっ! 思い知りなさいっ!」
はいはい。思い知らせていただきます。
「もうっ、悔しいっ! 聖弥くん、アタシが一緒に合唱やろうって誘ったらソッコーで断ったのに、あんたとは一緒に歌いたいだなんてぇっ!」
「あー、ところで小夜ちゃん。あたし今日、用事があるの。音楽室の掃除はできないなぁ」
「はぁ? そんなの認めないわっ! アタシも用事ができたのよっ。あんたの用事より、アタシの用事のほうが重要であることは間違いないわっ!」
そうですよね。
小夜ちゃんの用事のほうが重要に決まってます。はい。
ガタガタと椅子を鳴らしてみんなが教室を出て行く中、小夜ちゃんがあたしの前に立ち塞がってアゴをしゃくっている。
こういう感じになったときは、もうどう言っても彼女は引き下がらない。はいはいと言うことをきいてあげたほうが、ムダな時間を取られなくて済む。
まぁ、でも代わりを頼むということは、一応、掃除に対して責任は感じているっていうことよね。
サボってしまおうってならないところが、小夜ちゃんらしい。
「分かった。仕方ないな。あたしが代わりに行ってあげる」
「当然よっ! もうひとり、ほかのクラスの委員が来るから、力を合わせてやりなさいっ!」
ぷいっと背中を向けて歩き出す小夜ちゃん。
あー、箱屋さんが営業しているうちに支払いに行けるかなぁ。
しかーし。
ふふふ。
こんなこともあろうかと、今日、箱屋さんへ支払うお金は、あらかじめ持って来たのです。
これは、お母さんにはナイショ。
本当は、昨日の夜、お金をお母さんから預かったとき、「学校には持って行かないで、一度家に取りに帰ってきてから行ってね」と言いつけられた。
でも、箱屋さんは高校のすぐ近くだし、お金を取りに帰って時間をとられると夕ご飯の支度やお洗濯も遅くなって、箱詰めのお手伝いをたくさんできなくなっちゃうかもしれないし。
だから、こっそり持って来ちゃったの。
音楽室の掃除で少し遅くなるかもだけど、お家に一度帰らなくていいから、セーフ。
音楽室は、渡り廊下の向こうにあって、上から見るとカタツムリのツノみたいに校舎から突き出ている。美術室も同じ。
さぁ、さっさと掃除を済ませてしまおう。
そう気持ちを切り替えて渡り廊下をとっとこ走っていくと、ちょうど半分くらいのところでピアノの音が聞こえた。
誰かが音楽室でピアノを弾いている。
手前にある音楽準備室は戸が開いていて、中には誰も居ない。椅子が引かれた高橋先生の机が、ちょっと寂しそう。
髙橋先生が弾いているのかな。




