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1-3 それってなんであたしなのっ?(6)

「はいはい、彼は確かに以前はテレビに出ていた有名人かもしれないが、ここではみんなと同じ、ひとりの生徒だ。変に意識しないで。さぁ、三人とも、校歌斉唱、いいかな?」

 先生のひと声に、急に音楽室中がしゅーんとなった。

 先生、とっても素敵。

 また、ババーンとピアノが鳴って、壇上の三人が校歌を歌い始める。

「♪ あさゆうあおぐ、おおみねの~」

 え? 

 ちょっと、どうしたの?

 ほかのふたりの声がまったく聞こえない。

 甘い声。

 素敵な、とっても素敵な、透き通った歌声。

 これが、三条くんの声……。

 重たいバリトンでも、艶やかなテノールでもない。

 もっと中性的な、テノールとアルトの中間のような、そんな澄んだまっすぐな声。

 気がつくと、あたしは目をつむっていた。

 すーっと、心が洗われていくみたい。

 まるであのとき、教会で聖歌隊の歌声を聴いたときみたいに……。

 バーンとピアノの余韻が響いて、歌が終わる。

 ハッとした。

 彼の歌声にうっとりとしていた自分に気がついて、思わず下を向いた。

 顔が熱い。

 三条くんたちが席へ戻る。

 「はい。ありがとう。これで全員終わりかな? では、今日の授業はここまで」

 どうしてだろう。

 足に力が入らない。

 テーブルにぶつけた傷のせいかな。

 みんなが立ち上がって、音楽室がさっきの静けさからは想像もできないほどのガヤガヤでいっぱいになった。

 数人の女子がわーって言って、三条くんに駆け寄っている。

 ちょっと迷惑そうな顔の彼。

 スカートの上から、両足をさする。

 小夜ちゃんが段を上がってこちらへやって来た。

「ちょっと、ジャム子ぉ。元合唱部が本気で歌ったらダメじゃない。みんなヒクでしょぉ」

「え? あたし、そんな本気だったかな。あはは」

「だいたい、あんな歌い方、合唱部のときにしたことなかったじゃないっ。あんた、手を抜いていたわねっ?」 

 ええ? なんでそうなるの?

 手を抜いていたつもりはないけど。

 自分の本当の音域と違うパートで歌ってただけ。

 机に両手をついて思いきり顔を近づけた小夜ちゃんが、もっと迫りながらギャーギャー言い始めると、その肩に突然、軽く手が掛かった。

「小夜、うるさいぞ?」

「ええっ?」

 ビックリした小夜ちゃん。

 彼女を押しのけて、あたしの顔を覗き込んだのは……。

「おい、イチゴ」

 すっごく怖い顔の……、三条くん。

 思わず背筋を伸ばす。

「いいい、イチゴって、あたしのことっ? あのっ、け、今朝はごめんなさいっ!」

 のけ反ると、彼の顔がもっと近づく。

「お前……、夢がないのか」

「え?」

 真剣な顔。

 思わず目を逸らす。

「夢は……、その……」

「夢がないんなら、お前、俺の夢を手伝え」

「へっ?」

 彼の後ろで、小夜ちゃんがなにやらギャーギャーと騒いでいる。

 そのさらに後ろには、たぶん彼のファンだと思われる女の子たちが数人。

 あたしは、ググッとのけ反ったまま。

 彼の口元がほんの少し上がる。

「お前、俺と一緒にユニットを組まないか?」

 ユニット?

 一緒に歌を歌うってこと?

 あたしが? 

 三条くんと?

「えーっと」

 また目を逸らす。

 すると、その逸らした先に、彼がすっと顔を動かして、もっと近づいてあたしの瞳を覗き込んだ。

「俺と一緒に、プロを目指そう」

「え? え? えええぇぇぇーーーっ?」      


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