プロローグ イチゴのパンツなんて履いてません!(2)
「三条聖弥」
「やっとしゃべった。えっと、三条……? ああ、キミが三条くんなのね。なるほど、確かにイイオトコだわ。でもさぁ、キミ、いきなり顔をバッグで殴られて気分が悪いのは分かるけど、養護教諭の私にまで悪態つく必要なくない?」
うわ、なんでケンカ腰?
でも、なんか、先生は三条くんのことちょっと知ってるっぽい。
「だいたいさぁ、保健室に来たってことは、自分から応急処置を受けに来たってことじゃん? 悪態つくのっておかしくない? こっちが不機嫌になるわ」
「はぁ? 俺はここへ来る気はなかったんだ。そいつが無理やり腕を引っ張って――」
「え? なに? こっちが『はぁ?』って言いたいんだけど。こんな可愛らしいちっちゃな女の子から腕を掴まれたって、その気になればいつでも簡単に引き抜けたでしょうに。ふんっ。結局、自分でやって来たんじゃない」
あのぉ、ちっちゃな女の子って……。
確かに、「来年になったらぎゅーんって伸びるもん!」って毎年言いながらもずっとちっちゃいままのあたしですが……、あたしは今年、いや、来年の一月で十六歳になる、ちゃんとした高校一年生です。
あ、いやいや、そんなことはどうでもいい。
そんなことより、これは……、すっごく彼に申し訳ない。
彼は被害者なのに、あたしのせいで先生から変なふうに思われちゃう。
確かに彼は、何度も「大丈夫だ」って言ってそのまま帰ろうとしてた。
それなのに、めっちゃパニックになって無我夢中で彼を保健室まで引っ張って来てしまったのは……、あたし。
そう先生に言おうとしてちょっと踏み出すと、今度は突然、先生の目がカッとあたしのほうへ向いた。
「ふんっ。宝満さんっ、だいたい、なんでこんな面倒くさいオトコの顔が、もっと面倒くさくなるほどバッグをぶん投げたのよ」
「ええっ? そっ、それは、あの……、翔太がまたあたしをからかったから……」
「からかった? なんて言って?」
「えーっと」
彼はハンカチタオルを顔に押し当てたまま、窓の外へ目をやっている。
先生、それ、言わなきゃだめ?
「あの……、あたしの家、イチゴ農家なんですけど……、その、翔太ったらほかの男の子の前で、あたしのこと、『こいつは死ぬほどイチゴを愛しているから』って、その……」
「は? 愛しているから? なに?」
先生がイライラしてる。
もうっ、翔太のバカ!
「その……、『こいつは死ぬほどイチゴを愛しているから、パンツまでイチゴ柄なんだぞ』って」
一瞬の沈黙。
彼は窓のほうを向いている。
先生はキレイな瞳をちょっと大きくしている。
うううっ、恥ずかしいっ!
「あああ、あの、あたし、イチゴ柄なんか持ってな――」
「あーっはっはっはっ! ひひっ、ひひひっ、ショウタってやつサイコー! ねぇ、今度、そのショウタを保健室に連れて来てよ」
ええっ?
これって、もしかして宝満がいじめられているのではっ? とか、そんな話にならないの?
うわぁ、先生、めっちゃ笑顔。
「あーもうっ、お腹がよじれそう。三条くん、災難だったわね。あまりのバカバカしさに呆れたわ。この程度の話だから、あんたももう許してあげなさいよ」
にじみ出た涙を指で拭きながら、先生が三条くんのほうを振り返る。
彼はまだ、窓のほうを向いていた。




