1-3 それってなんであたしなのっ?(5)
教壇から見渡す音楽室。
目の前に広がる階段状の席。
なんだか、コンサートホールのステージに立っているみたいで素敵。
ふたりが自己紹介して、ついにあたしの番。
「ほ、宝満日向です。南中学校でした。夢は……」
前のふたりが言った夢は、「パテシエになりたい」と、「看護師になりたい」。
「あたしは……、特にありません」
あたしの夢は、宝満農園だけの特別なイチゴを作って、いつかお母さんを楽にしてあげること。
でも、ここではその夢は話せない。
ここには宝満農園をあまり良く思ってない、『ガオカ』の子が何人かいる。
「うん? そうか。じゃ、次は校歌斉唱ね」
あたしがピーンとキヲツケすると、ほかのふたりもちょっとだけ背筋を伸ばした。
ババーンとピアノの音が鳴る。
先生、ピアノ上手。
ピアノが弾ける男性って、なんかすごく魅力的だよね。
「♪ あさゆうあおぐ、おおみねの~」
ちょっと背伸びをしながら、思いきり声を出す。
合唱部ではずっとアルトだったけど、あたしの本当の音域はソプラノ。
お腹の底から声が湧き上がって来て、すごく気持ちいい。
「♪ ゆうしにたかきこころざし~」
歌を歌うときだけは、自分に嘘をつきたくない。
そう思っていたのに、合唱部ではずっと嘘をつきっぱなしだったんだけどね。
バーンと、長く伸びたピアノの和音。
伴奏を終えた先生が、あたしたちにニコニコ顔を向けた。
「はい。よくできました。宝満さん、特に声がよく出てましたね。みんな拍手」
パラパラと愛想笑いのような拍手を受けて、小さく礼をして教壇を下りる。
なんか、ひとりだけ本気モードでやってしまった。ちょっと恥ずかしい。
うわ、三条くんが睨んでる。
なに?
あたし、なにかした?
ハッと見ると、小夜ちゃんもすごい顔であたしを睨んでる。
なんだかよく分からないけど、これはあとでなにか言われる、ザ・小夜ファイヤーの予感。
そういえば、三条くんって、とっても歌が上手なキッズ歌手だったんだよね。
どんな声で歌うんだろう。
普段の声は、澄んでいるけどとっても落ち着いてて、ちょっと大人っぽい感じ。
でもたぶん、歌になったらすごく艶があって、素敵な――、いやいやいや、あたしはそんなのに興味はないのっ。
しかし……、まともに顔が見られない。
ううう、前の人の陰に隠れたいのに、席の段差がけっこうあるからムリみたい。
あ、次は三条くんたちの番。
自己紹介が始まる。
「三条聖弥。セイントクラリス学園中等部出身。夢は……」
なんだろう。三条くんの夢って。
きっと、『ガオカ』の人らしい、お金持ちならではの夢なんだろうな。
そう思いながら視線を向けると、突然、彼があたしを見た。
目が合う。
えっ?
「夢は……、自分の実力で、もう一度ステージに立つこと」
教室がザワッとなる。
「あれ、もしかして、『UTA☆キッズ』に出てたセイヤじゃね?」
「女子が隣のクラスに居るって言ってた」
「ひえぇ、ムカつくイケメン」
そのあと、雨が降り出したみたいにザワザワーッと広がったどよめき。
先生が立ち上がって、パンパンと手を鳴らす。




