1-3 それってなんであたしなのっ?(4)
今日は、入学して初めての音楽の授業。
あたし、音楽大好き。
歌を歌うのが一番好き!
とっても小さいとき、お父さんが近くの教会へ聖歌隊の歌を聴きに連れて行ってくれて、すっごく感動して。
お父さんに、「あたしもあそこで歌いたい」ってお願いしたら、「あの聖歌隊は男の子しか入れないんだ」って言われてすごくがっかりしたけど、その代わり、それからはずっと農園のお手伝いのときに、お父さんとお母さんと一緒に温室で歌ってた。
お父さんもお母さんも、とっても歌が上手なの。
ふたりとも合唱部だったって。
小学四年生になって、授業でクラブ活動が始まったとき、あたしは迷わず合唱クラブに入った。
それから五年生も六年生も、ずっと合唱クラブ。
五年生のとき、転校してきた小夜ちゃんが入ってきてちょっとガチャガチャってなったけど、でも、週一回とっても楽しみだった。
だから、中学でも同じように合唱部に入ったの。
でも……、どうしても続けられなくて。
「もうっ、なにしてるのっ? 音楽室は遠いのよっ? それに、音楽の授業は四組と合同なのっ! 早く行って、聖弥くんの隣に座るんだからっ!」
あ……、そういえば、そうだった。
音楽と美術は選択科目。
クラスが半分ずつそれぞれの教科に分かれて、隣のクラスと合同で授業を受ける。
そういえば我が一年三組は、隣の四組と合同だ。
四組は三条くんのクラス……。
小夜ちゃんの話では、三条くんも音楽選択らしい。
うわぁ……、なんか気まずい。
「音楽担当の高橋です。男の先生で驚いたかな。さぁ、今日はみんな三人ひと組で前に立って、ひとりずつ自己紹介したあと、三人で校歌を歌ってもらいます」
ええーっ! っと、どよめく音楽室。
そんなの聞いてない。
確かに、入学式のあとのホームルームで、動画サイトの校歌のQRコードが配られて、みんな最初の音楽の授業までに覚えてくるようにって言われたけど……。
音楽室、けっこう広いな。
中学校の音楽室は床が平らだったけど、ここはお雛さまみたいに段々になってる。
あたしはけっこう後ろのほう。
見回すと、右前のほうに、見覚えのある広い背中が見えた。
三条くん……。
うわぁ、今朝、あの背中におんぶされたんだ。
はっ……、恥ずかしい……。
思わず、真新しい音楽の教科書でパタパタと顔をあおぐ。
三条くんは同じ四組の女の子に挟まれて座って、ちょっと居心地悪そう。
左の前のほうを見下ろすと、その姿をじとーっと眺めている彼女が居た。
小夜ちゃん、残念だったね。席が指定されてて。
「さ、みんな静かに。自己紹介ではみんな、なにかひとつ将来の夢を話してくださいね」
さらにどよめき。
うわ、またひとつハードルが上がった。
あたし、みんなの前で話せる夢なんてないよぅ。
翔太なら『夢はプロ野球選手』って、小学生みたいな夢を即答するだろうけど。
案の定、翔太は美術選択。
実は翔太、すっごい音痴なの。
中学に入ったとき、野球部に入るのはやめてあたしと一緒に合唱やろうかって真剣に考えたみたいだけど、翔太のお父さんから、「お前が人前で歌うというのなら、俺はお前と親子の縁を切る」とまで言われたみたい。
「はい、ありがとうね。では、次の三人、前に出て」
あ、次はあたしの順番。
前の席のふたりと一緒に段を下りる。
ひょこひょこと右足を引きずって歩くのが、かなり恥ずかしい。
ああ、やっぱり三人の中であたしが一番ちっちゃいな。




