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1-3 それってなんであたしなのっ?(2)

「お前は子どもか。ヒビが入っているかもしれないな。すぐに冷やして、病院へ行ったほうがいい。今日は学校休め」

「え? いや、今日は初めての音楽の授業があるから」

「そんなのどうでもいいだろ。とにかく病院へ行け。とりあえず家まで連れて行ってやる。隣のイチゴ農園だろ?」

 そう言って、あたしの前に背中を向けてしゃがんだ彼。

 どうして、あたしの家が隣の農園って知ってるの?

 それよりも、なに? これって、おんぶして運んでくれるってことっ?

 ちょっと待って。

 そんなことしてもらったら、あたしっ、もう二度と立ち直れなくなってしまう。

「い、いや、大丈夫っ。ひとりで戻れるからっ! ほんと、ごめんなさいっ!」

「うるさいっ。大人しく乗れっ」

 あ、怒った。

 怖いよぉ。

 もうっ、仕方ないっ!

「おっ、おっ、お願いしますっ!」

 ちょっと裏返った声。

「それでいい」

「……うん」

 ゆっくりと彼の背中に体を預ける。

 心臓の音が聞こえてしまいそう。

 彼があたしを背中に乗せてよいしょっと立ち上がったとき、台所の流しでじっと目を閉じて瞑想しているベートーベンが目に入った。

「あ、でも、ベートーベンが」

「ニワトリはあとでいい。俺が連れてくる」

「でもでも……」

「大丈夫だ」

 そう言って、彼はドア前の土間まで行って、あたしを落とさないように体を前に倒したままトントンとローファーを履いた。

「靴は?」

「え? えっと、サンダル履いてた。お風呂場の窓の外かも」

「そうか」

 そう言いながら、彼が扉を押し開けると、もう外はすっかり朝。

 少しでも彼の腕に掛かる体重を軽くしようと、ちょっと恥ずかしいけどしっかりと彼の首に腕を回して、ギュッと頬を寄せてしがみつく。

 そのとき、彼の肩越し、お風呂場の窓の下に、バラバラのほうを向いて転がっているサンダルが見えた。

「あれか? お前のサンダル」

「う、うん」

 うわぁ、子どもが脱ぎ散らかしたみたい。

 もう、恥ずかしすぎて死にそう。

 あたしが不法侵入したお風呂場の窓の前まで、ゆっくりと進んだ三条くん。

「落ちるなよ」

 そう言って、ひょいとあたしをしょい直すと、彼が「よっ」と言って体を折った。

 サンダルを拾ってくれるみたい。

 すっと体が起きて、彼の背中に掛かっていたあたしの重さが、再びゆっくりとその腕に移る。

 もう……、恥ずかしいよぅ。

 そのとき。

 チラリと目に入った、お風呂場の摺りガラス。

 それまでおぶられているあたしには見えなかった三条くんの横顔が、一瞬だけその窓に映った。

 え? 笑ってる?

 ほんの一瞬だけど、なんだか彼が笑っているように見えた。

 いやいやいや、彼が笑うはずがない。

 そうとう怒ってるはずだもん。

 ああ……、もうこれは絶対、お母さんにぜんぶ話さないと。

 あちこち穴が開いた、朽ちかけの鉄の外階段。

 あたしをおんぶした彼がゆっくりと下りるたびに、朝の静かな空気に、カン……、カン……と、その音が小さく響いた。階段の周りでは、春らしく澄んだ朝焼けが、アパートを囲む雑木林の木々をキラキラと揺らしている。

 砂利道を下って表の通りに出たところで、あたしはちょっと分かりにくい我が家の入口を指さした。

「あの……、卵の自動販売機があるところが入口。家は林の奥に引っ込んでるの」

「知ってる」

「え?」

 そうか。アパートから見下ろすと、雑木林の中に家があるのが分かるもんね。

 隣がイチゴ農園ってことも……。

 なんかちょっと恥ずかしい。

 それからものの数秒、なにも言えずに三条くんの首にギュッとしがみついていると、彼がちょっと立ち止まって、腰を落としてよいしょっとあたしをしょい直した。

 そのときだ。

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