1-2 なんでアンタがお隣さんっ?(6)
ううう、頑張れあたしっ!
恐る恐る、一段ずつそっと足を掛けて、ゆっくりと階段を上る。
階段の先は二階の通路。
右が山家さんの部屋、左が見知らぬ声のヌシの部屋。
やっと上り終わると、左側の部屋の中からガタゴトと音がした。
もしかしてっ。
見ると、玄関扉のすぐ横のお風呂場の高窓が開いている。
思わず、その窓に首を突っ込んだ。
まさか、まさか、まさか!
次の瞬間、突然聞こえた、その度肝を抜かれる朝鳴きの声。
コケコッコーーッ!
この声っ! やっぱり!
我が家のリーダー雄鶏、『ベートーベン』がこの窓から入り込んだんだ!
あたしは思いきり伸び上がってその高窓から身を乗り入れると、それから湯舟の縁に手を掛けて体を滑り込ませた。
うわっ、バランスがっ!
ドスンっ! と重たい音。
ううう、痛ぁい。
いや、痛がってる場合じゃない。
ハッと起き上がってお風呂場から這い出ると、先の薄暗い部屋の中に、窓から差し込む淡い朝日を受けてよちよちと歩くニワトリが見えた。
「こらっ、なにしてんのっ!」
思わず声を上げて、そのふわふわを目掛けて薄暗い部屋へ飛び込む。
ガチャン!
突然、足になにかが触れた。
鈍い音。
ぐるりと回る部屋。
「ああっ!」
無意識に声が出る。
そしてその声に続いて、なにか陶器のような物が弾け飛んだ音がした。
カシャーン!
コントロールを失って、まるで勢いよくプールに飛び込むみたいに空間を泳ぐあたし。
すると突然、両手を伸ばしたその先の暗がりに、キラリとふたつの目が光った。
ひいいいいいっ!
ゾワッと背筋に冷気を感じて、思いきり目をつむる。
次の瞬間。
ゴツッ!
頭蓋骨に重たい衝撃があって、ひと呼吸遅れて激痛が走った。
痛ぁぁぁい!
でも声が出ない。
直後に柔らかなものに体が沈み込んで、耳のそばで、「うう……」と押し殺した唸りが聞こえた。
怖い怖い怖い!
ギューッと目をつむって体を縮こまらせると、食いしばった歯が小さくカタカタと鳴った。
一瞬の沈黙。
ん……?
なんだか、いいにおい。
あたしはすーっと息を吸って、それからじわりじわりと目を開いた。
ゆっくりと顔を上げると、なんとそこに居たのは……。
「うわ、お前、なにしてんだ」
ななな、なにっ?
どうして彼がここにっ?
のけ反って顔を離すと、そこには目を丸くしてポカンと口を開けている、三条聖弥くん。
「さささ、三条くんっ? どうしてここに居るのっ?」
「いや、それはこっちのセリフだろ」
少し目が慣れた。
見回すと、ここは畳のお部屋。
部屋の真ん中ではガラステーブルが派手にひっくり返っていて、そのすぐそばには、畳に転がった空のマグカップ。
なぜか、あたしが居るのは畳の上に置かれたふかふかのベッドの上で、さらになぜか、品のいい紺色のパジャマを着た三条くんにしっかりとしがみついてて。
意味が分からない。
すぐ近くに三条くんのキレイな瞳。
「えっと、えっと、えっと……」
このシュールな状況を把握しようと頭をフル回転させていると、なにやらモゾモゾとあたしの背中を異様な感触が這い上がった。
次の瞬間、どさりとあたしと三条くんの間に毛の塊が落ちる。
「ベートーベン!」
「うぎゃぁぁぁぁ!」




