1-2 なんでアンタがお隣さんっ?(5)
もうひとり、中学一年生の晃は、自分の部屋でスリープアローン。
去年の春、「母や姉と一緒に寝るような男は男じゃないっ」って言って、自分の部屋でひとりで寝るようになったんだけど、台風のときはしれっとお母さんの隣に布団を敷いてたっけ。
寝ぼけ頭でそんなことを思い出しながら、ぼーっと聞いていたニワトリの声。
しばらくして、だんだん意識がハッキリしてくると、その様子がなんだかいつもとちょっと違うことに気がついた。
ん? 朝鳴き……してないよね。
いつもなら、新しいお隣さんの度肝を抜くすっごい声が鳴り響く時間なのに。
あれ……?
なんだろう、この砂を踏む音は……。
縁側のサッシの向こう、カーテンに隠れて見えない庭のほうから聞こえる、数羽のニワトリたちがぞろぞろと歩き回って砂を踏む音。
ハッとして飛び起きた。
思わず縁側へ駆け寄って、ガバッとカーテンを開ける。
えっ?
なんでみんな小屋から出てるのっ?
ちゃんとカギを掛けたはずなのに、小屋の扉が開いていて、ニワトリがぜんぶ庭へ出てしまっている。
まだ薄暗い空の下、うっすらと見える庭でウロウロと歩き回っているニワトリたちの姿。
ちょっと、どうしたっていうのっ?
思わず、縁側の引き戸を開けて、スウェット姿のままサンダルを引っ掛けた。
駆け寄ってみると、小屋の中には一羽も居ない。
えっと、庭に居るのは……、に、し、ろっ、ぱ、と、じゅうに、じゅうよん……。
うわ、一羽足りない。
さらによく見ると、どうも居なくなっているのは、最年長のリーダー雄鶏、『ベートーベン』。
彼は、温厚で皆からの信頼も厚い、まさにリーダーにふさわしい人格者だけど、ごく稀に若き日の冒険心に火が着いて、誰にも告げずに孤独な冒険へと旅立ってしまうことがある。
この前は、裏の上のハウスの向こうまで遠征していて、なぜかひっくり返った大籠の中に閉じ込められているところを晃が率いる捜索隊に発見された。
また、ハウスのほうへ行ったのかな。
いつも、けたたましい朝鳴きをとどろかせる『ベートーベン』の声が聞こえていないということは、かなり遠くへ行ってしまったってことだ。
これはマズい。
でもとにかく、この子たちを鶏小屋に戻さなきゃ。
あたしはすぐに雨戸の横に立て掛けていたホウキを取って、それからニワトリたちを鶏小屋のほうへ追い立てた。
一羽、また一羽と、ニワトリが開いたままの扉から鶏小屋の中へと入っていく。
よしっ、ぜんぶ戻したっ。
あおり止めをしっかり掛けると、汗がつーっとこめかみを伝った。
でも、どうしよう。
ベートーベンを捜しに行くのが先か、それとも弟たちの朝ご飯を作るほうが先か。
あたしも早く用意しないと、新入生の遅刻第一号になっちゃう。
そうして、うううと唸ってホウキを胸に抱き寄せたとき突然聞こえたのは、朝の静けさに似合わない叫び声。
「うわっ! うわぁぁぁ!」
えっ?
ハッと声のしたほうを見る。
聞こえたのは、山家さんのアパートのほう。
右も左も窓が開いている。
声は……、山家さんの声じゃない。
もしかしてっ!
あたしはすぐにアパートのほうへ駆け出した。
物干しを通り越して、石垣をよじ登る。
アパートの階段は、建物の向こう側。
タタタとその階段へ駆け寄って、バッと一段目に足を掛けた。
いっ? 前よりボロボロになってるっ!
錆びてあちこち穴が開いた階段。
ところどころ欠けて落ちているパイプの手すり。
うわぁ、怖いよう。
すると、またその声が聞こえた。
「ちょ、ちょっと待てっ、こっち来るなっ!」




