1-2 なんでアンタがお隣さんっ?(3)
「ありゃ、どうした? 日向ちゃんらしくない」
「ううん。高校、入学したばかりだっていうのに、もういろいろやらかしちゃって」
「やらかした?」
「とある男子の顔にバッグを投げつけ、さらにビンタを……」
「そりゃ、すげぇ。どうせなら蹴りも食らわせりゃよかったのに」
さすがにそれは。
でも確かに、ビンタのあとに蹴りも出そうになったけど。
山家さんが、ビールを持った手と一緒にクククと小さく肩を揺らす。
「そういや、イチゴはそろそろクライマックスを迎えるころじゃない?」
「うん。今月から来月にかけてが一番忙しいかなぁ。去年は山家さんが手伝ってくれたから、ほんと助かった。ありがとね」
「いやいや、突然のことだったし。大変だったね」
お父さんが居なくなってしまって、もうすぐ一年。
ちょうど、我が農園は一年で一番忙しい時期を迎えていて、お母さんは完全にパニックになっていた。
旬のイチゴはどんどん出荷しなくちゃいけないし、夏に向けてほかの野菜たちの作付け準備もたくさんやらなきゃいけなかったし……。
お父さんがやってたことを、突然、ぜんぶお母さんがひとりでやらなきゃいけなくなった。
そんなとき、翔太のお父さんと、このお隣さんの山家さんがいっぱいお手伝いをしてくれて、宝満農園はなんとか危機を乗り越えられた。
「山家さん、今年はお手伝い、大丈夫だから。いまのところ、翔太と翔太のお父さんがお手伝いしてくれてるし、山家さんのお仕事の迷惑になったらいけないし」
「うん。実はいまちょっと大きな仕事を抱えててね。残念だけど、今年は手伝いは無理みたい。その代わり、消費者として加勢するから」
「あはは。ありがと」
我が宝満農園の主な商品は、ケーキ屋さんやパン屋さんに買ってもらう加工用イチゴのほか、そのイチゴで作った特製ジャム。それから野菜類が少々。
それと、雑木林の外、前の道から敷地に入る門のところに置いてある自動販売機では、新鮮な卵も売っている。
山家さんは、ジャムも野菜も卵も、とにかく我が宝満農園の商品をいつもたくさん買ってくれる、一番のお得意さまだ。
「あ、そういえば、駅前のスーパーに出してるジャム、ちょっと減らした? すぐ売り切れちゃうんだけど」
「うん。ちょっと手が回らなくて並べてもらう数を減らしちゃった。あ、もしかして……」
山家さんに聞こうかどうか迷ってたけど、ちょっと聞いてみようかな。
去年の秋から何度か届けられた、宝満農園宛ての励ましのメッセージカードのこと。
スーパーに出したジャムの空瓶に、『とっても美味しかったです。また楽しみにしています』って書かれたカードが入れられて、それが玄関の郵便受けに入っていて。
とっても嬉しかった。
でも、カードには差出人の名前はなくて、お礼を言いたいけど誰だか分からないままで。
「ねぇ、あの空瓶のメッセージカードって、山家さんでしょ?」
「メッセージカード?」
「ありがとね。とっても嬉しい」
「あはは。俺はそんなロマンチックなことしないよ。きっと、すごいファンが居るんだよ。日向ちゃんの」
とぼけちゃって。
でも、ちゃんとそのうち、お返しするからね。




