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1-2 なんでアンタがお隣さんっ?(2)

 でも、中学生になってしばらくして、なぜか突然ぜんぶの芸能活動を辞めて、いまは普通の人。

 お家は小夜ちゃんちのすぐ近くで、『ガオカ』の頂上付近らしいけど、小学校も中学校も遠い私立に通ってたから、地元の学校のあたしたちとはぜんぜん顔を合わせる機会がなかったみたい。

 ああ……、結局、まだお母さんに彼の顔にバッグを投げつけてしまったこと話してない。

 言おう、言おうって、ずっと思ってるのに。

「お母さん、弱火にしたらあとはちょっとゆっくりしてて。あたし、洗濯物取り込んでくる」

「あー、ごめんね。ありがと」

 縁側の引き戸を開けて、庭に出た。

 見上げると、優しい光のお月さま。その光を受けて、庭の砂がキラキラしている。

 とってもキレイ。

 このドッジボールができるくらいの砂地の庭が、あたしが産まれる前からの我が家の中心。

 この庭を、母屋、納屋、鶏小屋、温室が取り囲んで、さらにその周りをちょっと背が高い雑木林がぐるりと巡っている。

 東側だけは、雑木林の代わりにお隣さんの石垣が我が家を見下ろしているけどね。

 庭の西の端にある納屋の後ろは、畑と野菜のビニールハウス。

 イチゴだけじゃなくて、季節ものの野菜もたくさん作っているの。

 そして、母屋の裏は、北側の丘に向かってだんだん高くなっていて、このなだらかな丘に我が家自慢のイチゴたちのビニールハウスがずっと奥まで海の波のように並んでいる。

 途中で急に坂がきつくなって、奥の方で一段上がっているから、なんだか日本画の波みたいに見えるのがちょっと面白い。

 ぜんぶ合わせるとどれくらいの広さだろう。

 たぶん、野球ができるくらいの広さかな。

 ただ、母屋もハウスもぜんぶ雑木林に囲まれているから、前の道を通る人にはここは単なる林に見えるみたい。

 だから我が家は、知る人ぞ知るミステリーハウスなの。

 物干しは温室の出入口の前。

 ちょうど、鶏小屋、温室、物干しが、L字に庭の端のとんがった部分で敵の侵入を防いでいる感じ。

 いや、なにが敵かは分からないけど。

 物干しの向こうの石垣は、あたしの背よりちょっと高い石垣。

 その上に建っているのは、我が家唯一のお隣さんである古い二階建てのアパート。

 このアパートがある東側だけは、雑木林も電線も無くて、とっても空が広い。

「うわ、物干しと温室の間に蜘蛛の巣が。昨日はなかったのに。たったひと晩でこんなに偉いね」

 物干しの前のベンチにカゴを置いて、乾いた洗濯物を取り込み始めると、今日もそのアパートの二階から聞き慣れた声が響いた。

「お? 日向ちゃん、今日もお手伝い、偉いねぇ」

「あ、やまいえさん、こんばんはー。いやー、それがあんまり偉くもなくてー」

 いやー、あたしなんかより、ひと晩であの立派な夢のマイホームを完成させた蜘蛛さんのほうがずっと偉い。

 この人は、お隣アパートの二階の部屋に住んでいる、自称デザイナーの山家さん。

 二階にふたつ並んだ左側の窓の縁に腰掛けて、たまにぼーっと夜空を眺めている。

 歳は……、そういえば山家さんがいくつか知らないな。

 たぶん、あたしより一〇コくらい上じゃないかな。

 ずいぶん前からこのアパートに住んでて、たまにこんな感じで話すんだけど、実はけっこう正体不明なの。

 黒縁のメガネ、チェック柄のシャツ、そして、トレードマークは茶色のベスト。

 なんのデザイナーをしているのか知らないけど、そのセンスは大丈夫なのかちょっと心配。


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