プロローグ イチゴのパンツなんて履いてません!(1)
「はぁ……、ずいぶん強烈だったのね。こりゃあとでちょっと腫れるかも。あんた、この子になんか恨みでもあんの?」
保健室の先生がそう言ったとき、ちょうど『みんな帰りなさい』のチャイムが鳴った。
外はとっても素敵な春の夕暮れ。
窓のすぐ横で、朱色になり始めた空をバックに、綿菓子みたいな桜のピンクがふわふわしている。
とってもキレイ。
その綿菓子にぼーっと見とれていると、突然、目の前に桜に負けないくらいキレイな先生の顔がぬっと出た。
「うわっ」
「ねぇ、ちゃんと聞いてる? ミサイル娘」
ミサイルって、そんなにすごい威力だったかなぁ……、あたしのバッグ。
顔から火が出そう。
「ごめんなさい……」
入学して新学期が始まったばっかりだっていうのに……、高校生になったら中学のときとは違う可愛らしい女の子になるってお母さんに断言したのに……、どうしてあたしはいつもこうなっちゃうんだろう。
もう、あまりの子供っぽさに死にたいレベル。
しかもよりによって、こんな怖そうなほかのクラスの男子の顔にバッグを投げつけちゃうなんて。
「あのっ、彼に投げたんじゃなくて、翔太をやっつけようとして――」
「ショウタ? そしたら狙いを外してすぐそばに居た彼に当てちゃったってわけ? どっちにしろ人に向かって投げたんでしょ? 同じことじゃない。で? 誰? そのショウタって」
「えっと、同じクラスの……、その……、幼馴染みです」
「それで? そのショウタはどこ行ったのよ。ケガ人を女の子に丸投げして居なくなるなんて、なんて男らしくないやつ」
「えーっと」
違うの。翔太は悪くない。
あたしがバッグを投げたのは、ちょうど階段の前。
バッグをかわした翔太はそのまま階段を飛び下りて行っちゃったから、流れ弾が彼に当たってしまったことを知らないの。
翔太も悪者にしちゃった。
ぜんぶ、あたしのせい。
口をもごもごさせながら思わず下を向くと、短めの髪が頬にふわりと落ちた。
先生の前の椅子には、名前も知らないほかのクラスの男の子。
かなり不機嫌そう。
先生から桜色のハンカチタオルを頬に当てられそうになった彼は、体をよじってじとりと窓の外へ視線を向けた。
「ちょっと、冷やすんだからこっち向きなさい」
彼は答えない。
チッと舌打ちした先生。
すると先生はグイッと腕を伸ばして、ちょっと乱暴にハンカチタオルを彼の顔に押しつけた。
彼の頬がグイグイゆがむ。
「触られるのが嫌なら自分でやんなさいよっ」
うわ、先生、乱暴すぎ。
保健室の先生って、もっとこう、優しくて笑顔が素敵で……、いえ、なんでもありません。
彼がハンカチタオルを受け取ったのを見て呆れたようにため息をつくと、先生はそれからクリアファイルに入った名簿を取ってあたしに向き直った。
「宝満さんって言ったっけ? えーっと……、一年三組、宝満日向さん」
「は、はいっ」
「そしてキミは? クラス章からすると一年四組よね」
それを聞いて、彼は先生よりもっと大きなため息をついて、じとっと先生のほうへ目を向けた。
怖い。
でも、すごくキレイな顔。
ちょっとカッコいい。




