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狗狼丸-KUROMARU-  作者: T.ezu
15/16

Quest9 因果

「そなたちは逃げよ」

 狗狼丸は俺たちに背を向けて言った。だが、はいわかりましたというわけにはいかない。

「あんたはどうすんだよ」

「あれは私が千年前に調伏した魔人どもが稔如を依代にした集合体・・・すなわち、私が肩を付けるべき因縁だ」

 俺は狗狼丸の肩をつかんで言い募った。

「因縁とか関係ないだろ!あれが山を降りたらいずれにせよ俺たちもオシマイなんだ」

 狗狼丸は優しく俺の手を取ると、真っすぐこちらを見つめた。

「私がそうはさせない。信じてくれ」

「兼盛・・・」

「さあ、行け!・・・その香子という娘を忘れずにな」

 そう言われて俺は振り返る。依然として気絶したままの香子、先ほどの闘いのダメージが癒えていない遥亮と葵、万骸を見て震える健吾。皆ボロボロだ。それでも俺が闘うと言えば一緒に闘ってくれるだろう。だからこそ、俺は

「ごめん」

 俺は逃げなくちゃいけない。皆を守るために。俺は香子を抱えると、仲間たちを引き連れてその場を去った。

 

 それでいい。逃げて、そして生きるのだ。

 走る明里の背中を、狗狼丸は目に焼き付けた。そして万骸に向き直る。実際に一万、とはいわずとも百は下らぬ数の魔人が結集しているように見えた。そして稔如という稀代の高僧を芯にすることで、単純な加算以上の力を手に入れている。

 勝てるだろうか。そんなことを思うのははじめてのことだった。亡き父が変じた魔人と闘う時ですら、兼盛は必ず勝つと信じ闘志を燃やしていた。しかし、今回ばかりはその闘志が消えないようにするだけで精一杯だった。

 勝てぬかもしれぬ。だが、たとえ勝てぬとも闘い続け万骸をこの地に釘付けにせねばならぬ。狗狼丸は心の中でそう誓うと刀を握りしめた。

 

 いつもの如く、俺たちは遥亮の運転するワゴンに乗っていた。しかし、車中に立ち込める空気はいつもよりはるかに重苦しい。

「う、うーん・・・」

 呻き声が沈黙を終わらせた。

「香子!俺がわかるか」

「私は・・・私は、どうなったんですか」

 香子の目は困惑に染まっている。だが、その奥には瑞々しい若さがある。まだどこか不安であったが、良かった、完全に戻っている。

「兼盛がお前の中から稔如を追い出してくれたんだ」

「兼盛?稔如?」

 香子の困惑は強くなるばかりである。ああ、そうだよな。ここ数分間の激動を、香子は何一つ把握しちゃいないんだ。

「全部話す。まず、誠治だが・・・」

 誠治の正体、稔如とは、兼盛とは何者か。俺は逐一説明した。だが、どうも香子の集中力は俺とは別のところに注がれているようだった。

「それは?」

 香子は破邪五輪剣を指した。

「破邪五輪剣、破邪の五宝が合体した退魔の剣だ」

「そういう、名前だったんですね」

 どこか引っかかるものいいに、俺は眉を顰める。それを察してか、香子は続けた。

「白神神社で貰った絵巻に描かれていたんです」

 絵巻?と俺は鸚鵡返しに問う。香子は胸元から一本の巻物を取り出し、俺に見せた。輪郭がグネグネした絵柄のせいでちょっとわかりにくいが、カラーリングや大まかなシルエットは破邪五輪剣にそっくりだ。剣の周りに立っているのは阿弥陀衆か。

 そこまで読み取ったところで俺はあることに気づいた。これは、もしかするともしかするかもしれない。

「遥亮、戻ってくれ!」

 遥亮の方が跳ねる。

「えっ、なんで?」

「万骸を、倒すぞ」

 四対の眼が俺を見た。彼らに向かって俺は自分の考えを説明する。説明するうちに興奮がおさまってきた、そして気づく、この作戦は俺だけではなく、皆の命をも危険にさらすことを。

「・・・・気づいたと思うけど、この作戦は危険だ。もし誰か逃げたい人がいたら」

 言い終わらないうちに、ワゴンが猛スピードでUターンした。

「よ、遥亮!」

「行きましょう!明里さん!」

 驚く俺に向かって葵が言った。

「え?」

 彼女は決然たる面持ちで俺に向かって頷いた。

「ここまで来たら最後まで皆一緒だよ」

 健吾が言った。その声は震えている、だが、瞳には決意の炎が宿っている。

「皆・・・」

「私たちはチーム、一蓮托生です」

 香子が身を起こして言った。

「それに、兼盛さんには個人的な借りがあるようですし」

 ぐっと拳を握りしめるその姿は、俺が知るいつもの強い少女のものだった。

「そういうことさ」

 運転席から振り返らずに遥亮が言った。

「皆、覚悟はできてる」

「・・・ああ!」 

 アミダフォースの理念は偽物だった。でも、アミダフォースが結んだ絆は本物だ。


 ズン、と万骸の巨木のような腕が地に落ちた。千本の内ようやく一本か、と狗狼丸は溜息でもつきたい気分だった。だが、途切れぬ猛攻は狗狼丸に戦う以外の行動を許さない。

「シロガネ!」

 聞き覚えのある声に、狗狼丸は一抹の苛立ちを抱いた。

「何故戻ってきた!逃げろと言うたはずだ!」

「ごめん!あと謝罪ついでに一つ頼まれてくれ」

 予想外の返答に狗狼丸は振り返る。阿弥陀衆の子孫たちがずらっと並んでいた。赤い衣を纏った青年が再び叫ぶ。

「一分でいい!時間を稼いでくれ!」

 狗狼丸がその真意を問うよりも速く、彼らは動き始めた。明里が破邪五輪剣を構え、その肩に健吾と香子が手を置いている。さらにその二人の肩に葵と遥亮がそれぞれ手を置き、上から見ると三角形になるような陣形を組んでいた。

 陣形が組みあがると同時に、間欠泉のように湧き上がる力を狗狼丸は感じ取った。どこか懐かしい力だった。

「あいわかった。私に任せておけ」

 狗狼丸は刀を握り直し、万骸に躍り掛かった。アミダフォースを庇いながらの闘いは、先ほどまでに輪をかけて厳しいものだった。しかし、背後でどんどん増していく力が、まるで声援のように彼の背を押した。

 万骸の胸元を十字に切り裂いた時だった。傷跡が紫の閃光を発し、狗狼丸を吹き飛ばした。狗狼丸の体は紙屑のように吹き飛び、地面にたたきつけられた。

「いかん・・・!」

 また、私は失敗したのか。そう思うのと、明里が雄叫びを挙げるのは同時だった。

「来た来た来た来たぜーっ!」

 

 三日月の陣、絵巻にはそう書かれていた。恐らく月を愛した彼らの主君を思ってのネーミングだろう。五人の力を破邪五輪剣に注ぎ込むための陣形だった。

 俺たちアミダフォースは阿弥陀衆に比べれば陰陽師としての力はてんでお話にならない。でも、稔如の言うことが本当なら、俺たちの闘いの記憶が破邪の五宝、ひいては破邪五輪剣を千年前よりもずっとパワーアップさせてるはずだ。後はそのパワーアップが俺たちの力不足をカバーしてくれることを祈るしかない。

 そして、今、遂に破邪五輪剣に俺たちのフルパワーを注ぎ込んだ。剣を握る両手がジンジンと熱くなるのを感じる。

「皆、行くぜ!」

 はっ!うん!はい!OK!仲間たちの声が俺の闘志をさらに燃やす。俺たちは叫んだ。

「「「「「邪気、退散!」」」」」」

 破邪五輪剣の切っ先から光の柱が天を衝く。俺は剣を万骸に向かって振り下ろした。万骸は千本の腕を束ねてそれを受け止める。

「これでも、まだ足りねえのかっ」

 ブチブチと腕が切れるが、それも数本。致命的な一撃にはほど遠い。そうこうするうちに万骸がその腐臭を放つ口蓋を大きく開いた。喉奥から青く発光し始める。やばい。俺たちを消し炭に、いやこの辺一帯を更地にするほどの威力がある。

「諦めるな!」

 俺の両手に大きな手が添えられた。

「そなたちにはまだ守りたいものがあるはずだ!力を振り絞れ!」

 狗狼丸、いや兼盛が叫んだ。

「アミダフォース!」

 暖かな力がどっと流れ込んできた。俺たちは言葉にならない雄叫びを挙げる。光の柱は今や太陽のように眩い光を放っていた。

 ズガン!衝撃に俺は思わず目を閉じる。恐る恐る目を開けると、真っ二つになった万骸がいた。その巨躯がぶくぶくと泡立ち、そして、消えた。

「そなたたちの、勝ちだ」

 狗狼丸が呟いた。胸に安堵が広がると同時に、猛烈な疲労感に襲われる。俺は、意識を手放した。


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