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実家の事情

クラーラが嫁いでからしばらく。

実家のリナルディ伯爵家は荒れていた。


「おいっ! ハルトリー家からの金はまだ送られてこんのか!」


リナルディ伯爵ウンベルトの怒号が屋敷中に響き渡る。

もはや日常茶飯事となった光景。

使用人たちは『またか』と心中で嘆息しつつ、ウンベルトを宥めた。


「申し訳ございません、旦那様。現在交渉を進めておりますので……」


「そう言ってもうずっと経つではないか! このままではお前たちの給金も払えなくなるんだぞ!?」


それは困る。

事実、この短期間で使用人たちの賃金は大きく減っていた。

中には低賃金に喘いで夜逃げする使用人まで出てきている。


早いところハルトリー伯爵家から支度金をもらわねば、一家は破産だ。

何度も何度も使者を出しているが、辺境伯はまともに取り合ってくれないという。


「ただいまー! お父様、今いいー?」


怒りに震えるウンベルトのもとに、たった今帰宅した娘のイザベラがやってくる。

後ろには妻ルイーザの姿もあり、二人は華美なドレスに身を包んでいた。


「お前たち……そのドレスはなんだ? そんなもの持っていなかっただろう」


「あら、あなた。まさか令嬢が夜会に行くのに、流行後れのドレスを着ていけって? 冗談でしょう?」


「金がないと何度言えばわかる!? それともなんだルイーザ、お前の実家が借金を肩代わりしてくれるのか!?」


「はぁ? 嫌に決まってるでしょう? ハルトリー辺境伯からのお金はどうなってるのよ?」


言い争う両親を横目に、イザベラは欠伸しながら使用人に紅茶を淹れるよう命じた。


「ねー。次の夜会の予定がもう入ってるんだけど。お金がないってのは耳にタコができるほど聞いたから。なんとか次の夜会までにはドレス代、工面してよね。それが親の役目でしょ?」


「なっ……! 待て、待ちなさいイザベラ!」


ウンベルトの制止も聞かず、イザベラは二階に上がっていく。

この親にしてこの子あり。

彼は放心した様子でソファに倒れ込んだ。


頭を抱える夫を睨みつけ、ルイーザも娘の後を追うように二階へ上がっていく。

使用人たちの冷ややかな視線が降り注いでいた。


「……旦那様。よろしいでしょうか」


「はぁ……なんだ」


そんなウンベルトに話しかける使用人がひとり。

彼は主にリナルディ伯爵領の領地経営を補佐する役目を担っている。

不機嫌な伯爵に語りかけるのは気が引けたが、火急の用事があった。


「ひと月ほど前、旦那様の命で税を引き上げましたが……それに対して各地で反乱が起こり始めているようです」


「反乱だと……? 民が税を納め、領主を支えるのは当然のことだろうが! さっさと騎士団を動かして鎮圧してしまえ!」


「それが……鎮圧に向かった騎士団は、街道の脇から出てきた魔物に壊滅させられてしまいまして。民が反乱を起こした理由は重税による不平だけではなく、魔物除けの結界が維持されていないことにも起因しているようです」


クラーラが消えたことにより、領地の各地を守っていた結界が消えた。

もちろんクラーラがすべての箇所を守っていたわけではないのだが、彼女の影響力は測り知れないものだった。

結界の重要性を理解し、少ない資金をやりくりして治安を守っていたのだから。

経済的に苦しいリナルディ伯爵家が新たに黒魔術師を雇う金があるはずもなく、各地に魔物が溢れて治安が悪化しつつある現状。


そこでウンベルトも税を引き上げて黒魔術師を雇おうとしたのだが、それが裏目に出たようだ。

何をやっても手詰まりで、その原因が彼の妻子にあることは明白で。

しかしウンベルトは別の対象に憎悪を向けた。


「ハルトリー辺境伯のせいではないか……! 奴が金を送ってくれんからだ! どうせクラーラが辺境伯に送金しないよう吹き込んでいるのだろう……?」


「……いかがいたしましょう。反乱の火が拡大するのも時間の問題です」


「何度でもハルトリー伯家に使者を送り続けろ。それと、妻と娘には家から出ないように厳命しておけ。これ以上金を使われるのは看過できん」


「……承知しました。それと、また使用人の数が一名減りました」


「ふん、構わん。むしろ払う金が減って助かる」


すでにリナルディ伯爵家は斜陽にある。

そろそろ見切りをつけて逃げるべきか……ほとんどの使用人が頭を抱えていた。

かつては白魔術の名門として栄えたこの家も、当主の悪政と妻子の浪費によってこの有様。


崩壊の日は近いと思われた。

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