第93話失いますか?
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「ぅあ――くッ……あぁ!っ……ハァッ……ハァッ……!」
近くに自分の左腕が転がっているのを見た直後、響は膝を屈し、指先が皮膚に食い込む程強く右手で肩を掴んだ。
傷口からは大量の血液がどばどばと流れ出し、あっという間に大きな血溜まりが足元に出来上がる。
燃えるような耐え難い痛み。
そこに、自分の一部が切り離され、肉塊になり果てた喪失感が入り混じる。
呼吸は乱れ、涙が目の端から次々溢れて来ては落ち、アスファルトに染み込んでいく。
しかし、何より受け入れられなかったのは、敵に攻撃されたその事実だ。
「どう、なって……!動けない、はずじゃ。……ぁあっ」
脂汗を額に滲ませながら、響は吹き飛んでほとんどなくなった思考力の粒を目一杯かき集める。
スキル名【コマンドバトル】。
ターン制バトルを他者と自分に強制するその力が機能している限り、敵は行動順が先であるこちらに攻撃不可能であるはずだった。
実際、あの【守護者】の少女は直前まで動きを封じられていた。
ならば、どうしてっ……。
「神の力とは、絶対の概念を体現する力の事。世界の法則そのものの事。――そして、【守護者】はその力の一部を下賜される……」
不意に背後から届いた声に振り向くと、例の少女が悠然と歩みを進めて来ていた。
「【万界】の覇者、天外の剣、我が名は【覇剣】・トゥラヌア。ふふ、生憎と、神の剣に切れないモノなんて存在しないの。だって、それが私の絶対だから」
「ッ!?」
「けど、半端ながらも貴女の能力って厄介ねぇ。その強制力、私じゃなかったら少し手間取っただろうし。図らずとも、先に消す事にして正解だった……ってトコロかしらぁ」
トゥラヌアの剣の切っ先が高々と振り上げられ、天を衝く。
残酷な笑みはこちらを見下ろしていた。
「ねぇ、どう斬られるのがいい?四肢から徐々に削ぐ?それとも、頭から真っ二つにイっちゃう?」
「……死に方にッ、興味なんてない」
「おまかせって事かしら」
「違うね、今を生きるので精一杯だって言ったんだ。悪いけど――私はまだ、死ねない!」
響は右手に隠した発煙弾を手放す。
それが地面に転がった直後だった。
噴射口から爆ぜるように噴き出した白煙が、瞬く間に周囲を覆い隠す。
「!?ふっ、やん猪口才」
ぎょっとした表情も一瞬、トゥラヌアは柄を握る力を強め剣を振り下ろした。
受ければ斬られ、避ければ二度目の斬撃で命を刈り取られる。
咄嗟の判断。
固めた拳が紅いオーラを纏う。
絶対切断の効果は刀身のみか、はたまた剣全体にか。
当てて砕くか、当たって断絶か。
答えは――
「一撃目!」
「なっ!?」
柄頭へ叩き込まれた打撃に神剣が弾かれる。
仰け反ったトゥラヌア。
その隙に響は煙の中へ姿を隠した。
――今の、内に……
出来るだけ速く、出来るだけ遠くへ。
……まだ死ねない、生き延びるのだ。
やり残した事が沢山ある。
こんな理不尽だらけのゲームを終わらせて、一度は奪われた全てを取り返して、そして生きるのだ。
幾多の過ちも、目を背けたくなる過去も全部背負って、それでも――。
【ポイント】を使って発煙弾を更に複数個地面へばら撒き、簡単な止血も行いながら走る。
煙に紛れるのは対ゾンビ戦ではむしろ足を引っ張る悪手だが、プレイヤー相手には滅法ハマる戦法だった。
響にとって視界の悪さは大した意味を成さないからだ。
僅かでも音が耳に届けば、それだけで周囲の状況を把握出来た。
混乱する敵プレイヤーの声で位置を知覚し、奇襲、逃走。
仮にもし、相手に同じ戦法を取られれば、こちらが大きな音を出さなければ響の動きでそれを逆手に取れもした。
問題ない、大丈――
「響ぃッ。どこだー!」
「!?」
その時、白い煙の外で、薙沙が大声で叫ぶのが聞こえた。
「ナギ姉、駄目ッ!」
大声を出せばトゥラヌアに居場所を勘付かれる。
不味い、と響は急いで煙幕から抜け出し、それから直ぐに薙沙の姿を視界の右側に捉えた。
薙沙もこちらに気付き、一瞬、僅かに安堵の表情を浮かべるのが見えた。
「ナギ姉伏せ――」
彼女の頭が爆ぜたのはその直後だった。
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