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第92話逃走しますか?

 NNNow Loading…



 2メートルを超える並木の一つが、凄まじい勢いで瓦礫と共に道路側へ弾け跳んだ。

 立ち込める土煙。その中から飛び出した二つの影が、アスファルトを蹴って脱兎の如く道を駆け抜ける。


「急いで、ナギ姉!」


 響は背後の薙沙に向かって叫びながら足を速める。


 ――何だ、何なんだ、アイツ……!幾ら何でも強過ぎるだろっ。


 混乱と焦りの最中、響は胸の内側で悪態をつく。

 道路が、ミキサーにでもかけられたかの如く粉微塵になった。

 それも広範囲に渡ってだ。


 見た瞬間に、アレは防げないと悟った。

 そして、逃げるしかないと理解した。さながら、草原の土を踏み締め、凶暴な肉食獣から逃げ回る兎のように全速力で。


 ヘッドフォンは既に首元へ降ろしていた。

 可能な限り遠くへ、身を隠せる場所へ、急がなければ。


 だが、血肉に飢えた獣には、二兎を追う事など大した苦でもなかった。


「っ!?」


 一瞬、ズシャッという音が左側から微かに聞こえ、見上げた時には響達の体を巨大な影が覆っていた。

 切り刻まれた建物の瓦礫が雨のように降り注ぎ、アスファルトを砕きながらその上に積み重なっていく。


 コンクリートのにわか雨が止んだ後に残ったのは、その残骸と静寂。

 そして――


「うわぁ、すっごい反射神経!ぺしゃんこにするつもりが、咄嗟に避けるだなんて。人間って案外しぶといんだぁ。あ、でもぉ、貴女が特別だったりするのかなぁ。ねぇ、コマド・ヒビキ」


「……」


 響は何も言えなかった。

 出来たのは、荒い自分の呼吸を感じながら、遠くで悠然と歩みを進めて来る【守護者】の少女を見つめる事だけ。


 生きた心地がしなかった。


 辛うじて回避に間に合い、自分も薙沙も無事だった。

 にも拘らず、氷水を浴びせられたように頭から血の気が引いていくこの感覚。


 四肢が指の先まで痺れてしまったようになって、上手く力が入らない。

 片膝は屈したまま動かず、頭の回転もほとんど止まっていた。


 残った僅かな思考力で、視界に映る情報から現状の最優先事項のみを判断し、響は無理矢理に立ち上がる。

 そうして、左腕の簡易ギプスを地面に放った。


「来るなら……来い、私が相手になってやる」


「わぁ、いっさましー。まぁ、言われなくても、(はな)からそのつもりなんだけどぉ――ん?」


 攻撃しようと剣を正面に構えた瞬間、【守護者】の少女がそのまま動きを止めた。

 否、響の【コマンドバトル】の効果が発動し、強制的に止められたのだ。


「ふぇ、何これぇ?ぜんっぜん動けないんだけどぉ」


 困惑する様子を見せた敵を前に、響は叫んだ。


「ナギ姉、今の内に逃げて!」


「は?何言って……ふざけんな、置いて行ける訳ないだろ。一緒に逃げるぞ!」


「無理だよ、逃げられない。私が今ここから離れたら、スキルの力が解けてアイツが動けるようになる。この状態だって、数分も持たない。だから、出来るだけ遠くへ逃げて」


「なッ、そんな馬鹿な話があるか!帰るんだろ、だからあんなにしつこく連絡したんだろ、ここまで助けに来たんだろ。ミイラ取りがミイラになってどうするッ」


「馬鹿じゃない、真剣に最善を選んだんだ。いいから、早く――ザシュッ――え?」


 敵に背を向け、焦りを滲ませた声で薙沙を説得する最中、生温い液体が響の左頬に付着した。


 おもむろに顔を左腕に向けると――肘から先がなくなっていた。











【・ご案内】

 下の★★★★★の部分は、読後、ぜひ本作の評価にお使いください。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》





【追記・お知らせ】

文月です。

すみません、今週の投稿はお休みさせて頂きます。

次回の投稿は、10月の上旬になるかと思います。


また何かあればお知らせ致します。




【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】

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