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第90話あはっ

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 ――あれから、どれだけ時間が経過したのだろう。


「なるほど。そんな大事な話をアタシに隠そうとしてた訳ね、響」


 キャスター付きの椅子の上で腕を組んで座りながら、青木(あおき)瑠璃(るり)の声が眼前に立つ響を溜息交じりに問いただした。


「……」


 普段から職員室として使っている部屋は、クーラーが効き、適温にまで下げられている。

 それなのに、響の額にはジワリと汗が浮かんでいた。


 俯いた顔は口を一文字に引き結んだまま、険しい目つきで足元の床を見つめており、一向に口を開こうとしない。


「何とか言いなよ。そんなに黙ってられちゃ、話になんないでしょ」


「……ごめん」


「ごめん、って……アンタねぇ!自分が何したか分かってんのっ?そりゃあ薙沙お姉ちゃんは心配だよ、アタシだってそんな電話が掛かって来たら心配になるもん。けど、だからって何で三浦君を一人で行かせる必要があったワケ?外にたくさんゾンビがいるんなら――」


「ごめん。でも、袈刃音なら大丈夫だから。……ごめん、分かってよ」


「はぁ?何それ、「分かって」って。そんなテキトーな言葉で済むはずないでしょ!ゾンビに噛まれたマミお母さんが死ななかった事とか、アンタが最初から何の迷いもなくゾンビを殺しに動けた事とかも、全部見逃して来た。けど、そろそろちゃんと教えてよ響。ゲームが始まってからずっとそう、アンタ(なん)にも話してくんないじゃん」


 机をバンッと叩いて言う瑠璃。

 けれど、響はその言葉に対する返答を持ち合わせていなかった。


 自分達が時間遡行者だ、なんて話を一体どう打ち明けろというのだろう。


 無論、口外は禁物じゃない。

 信じてもらえない状況、という訳でもない。『アンデッド・ゲーム』のシステムを知っている瑠璃にならば、きっと説明は難しくないはずだ。


 それでも、話すのが怖くて、胸の中で生まれた言葉が喉の辺りで形を失ってしまう。


 何より――


「……はぁ、分かってる。それどころじゃないんでしょ、アンタのその顔見てれば薙沙お姉ちゃんの事で頭が一杯なのは十分伝わるし。……アタシだって、今そんな感じだもん」


 諦めたように溜息を洩らし、瑠璃は机に頬杖をついて窓の外を眺めた。


 愁いを帯びた青い瞳は、太陽の熱にジリジリと照らされた地面から伸びる蜃気楼を見ていた。

 まるでそこにはいない誰かの姿を、熱気でぼやけた視界の中に描き出すように。


「あとで、話してよ」


「……うん。ごめん、ちょっと外行って来るね」


 薙沙の救出については、今の響が関われる事はほとんどない。

 出来る事と言えば、こうして気を揉みながら彼女の帰りを待つ事だけだ。


 もっとも、響にはもう一つ気掛かりな問題があった。

 問題、というよりは違和感と呼ぶべきだろうか。


 確かに前回とは違って、早い段階で薙沙に帰って来てもらうよう連絡はした。

 そのためにゾンビの情報を伝えたし、万が一遭遇した時の倒し方も教えた。


 しかし、それだけだ。


 薙沙の動きに変化があったとしても、前よりも彼女の帰還の時期が早まるだけ。

 ゾンビの増殖速度も実際に速いとは思ったが、事前情報がある分、薙沙なら上手く切り抜けられるはず。


 何せ、時間を巻き戻す前の世界では、ほとんどゾンビへの知識が欠けたまま自力で施設に戻って来たぐらいの人なのだから。


 それなのに、問題が起きた。


 おかしい。

 これが考え過ぎであったならばいいが、ここ数日の経験の所為か、どうしても頭に【守護者】の影がちらついてしまう。


 一体何が起きているのか、情報を整理したかった。


「ぅっ、眩し……」


 明かりをつけていないため、やや影の濃い通路。

 靴を履いて扉を開くと、想像よりも強い日の光が網膜を刺激し、響は僅かに目を細めた。


 そうして、思わず手で太陽を遮りながら、扉の外へ一歩踏み出した直後だった。


「えっ?」


 目を開くとそこは街の中だった。
















文月です。

ブクマ、☆評価ありがとうございます。


ようやく90話という事で、そろそろ本作の画面をスクロールするのが面倒になって来たように感じます。

100話目も目前ですが、それはそれとして、今後も面白いストーリーをお送りしたいと思います。


今回は、特にお知らせなどはございません。

また何かあれば、例によって最新話の後書きにてお知らせしたいと思いますので。


それでは、次回をお楽しみに!


【・ご案内】

 下の★★★★★の部分は、読後、ぜひ本作の評価にお使いください。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》





【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】

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