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第87話街を駆け抜けますか?

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 ――(はや)く。

 背後から追い縋る風にすら襟首を掴ませぬ(ほど)疾く。


 マンションの屋上、ビルの外壁、街中に立つ電柱。

 着地点を蹴り付けて、建物から建物へ飛び移り、袈刃音は道とは呼べぬその道を跳ねるように進みゆく。


 妨げる者など誰もいない、最短の道を。


 眼下に横たわる世界は死に絶えていた。


 道路に散らばる無人の車達。

 中には、横転して焼けた跡を残している物、ガードレールを突き破り、店の入り口にまで侵入し停止している物も見える。


 見る限り人は完全に消え失せ、代わりにゾンビが街を我が物顔で歩いている。


 施設を出てからおよそ五分。

 移動した距離に対して経過した時はごく僅か。


 しかし、実際に残された猶予を考えれば、たった一分ですら惜しい。


 拠点であの通話……桜井薙沙の身に何かが起きたのは間違いない。

 故に、直ぐに探そうとなったが、今回はとにかく時間がなかった。


 目に見えるだけでこの数のゾンビ。これに、建物の中や物陰などに潜んでいるのも加わるのだ。

 街にいる限り、どこに隠れていようとも、奴等に見つかる可能性は恐ろしく高い。


 普通に助けに向かったのでは、間に合わないかもしれなかった。


 一番足の速い袈刃音に白羽の矢が立つのは必然。


 行き先は、眼前に映る黒いボードが――『アンデッド・ゲーム』のシステムが教えてくれる。

 遊戯神の設定したルールは、世界の時間をいとも容易く巻き戻す程に絶対だ。

 そのルールを利用してやれば、薙沙の居場所を把握するなど造作もなかった。


 腹立たしい事に、彼女のもとに瞬間移動しようとしても申請が受諾されなかったが。

 恐らく、遊戯神の妨害だろう。


 ◆―――――――――◇―――――――――◆

【プレイヤー名:三浦(みうら)袈刃音(かばね)

【ギフト名:プレイヤー転移。10000【ポイント】を消費し、任意のプレイヤーのもとに瞬間移動する(座標転移ではありません。なお、今回は移動先のプレイヤーの認証がないため、上記の三倍の【ポイント】を消費します)】


【!ERROR!:現在、転移が出来ません】

 ◆―――――――――◇―――――――――◆


「チッ」


 袈刃音は舌打ちした。

 黒いボードに赤く刻まれた【ERROR】表示は、依然として消える気配がない。


 ……やはり走るしかないか。


「――っ、と」


 普段慣れていない移動方法というのもあるが、文字に気を取られていた時間が長過ぎた。

 足場にする予定だった場所を通り過ぎ、袈刃音は着地点を見失う。


 仕方なく交差点の中心に着地すると、近くを彷徨っていた生ける屍共がそれに反応する。

 無論、その頃には、袈刃音は放たれた弓矢ように駆け出していた。


 右手、左手に焔を灯す。

【想焔】の朱色に包まれた拳は、走行を妨げる亡者を流れるように弾き飛ばし道を切り開く。


 最中、どこからか悲鳴が聞こえた。


「子どもの、声……?」


 思わず立ち止まり辺りを見渡すと、コンビニの近くに女の子の姿が見えた。

 少女はゾンビに囲まれており、入口では壊れた自動ドアをこじ開けて中に入った数人の子ども達が、少女に「早く来い」と焦った顔で呼び掛けている。


 その中で一人、少年が少女を助けに向かい、無理矢理に引っ張って立たせようとするが、不味い。

 口元から、(よだれ)の代わりに粘着いた血を垂れ流し、男のゾンビが飢えた獣のような勢いで少年の方へ噛み付こうとする。


 ――生者に喰らい付くしか能のなくなったその不死者を、鋭い蹴りが吹き飛ばした。

 

 袈刃音だ。

 少年は(くだん)の二人を抱え、コンビニの方まで送り届ける。


「に、兄ちゃんすげー……!」


「あの、ありがとうございます」


 その二つの言葉に微笑みで返す。


 無事戻った友達を見てか、他の子達が安堵の表情で袈刃音の近くに集まって来た。

 子ども達は皆揃って幼かった。時花と同じくらいか。

 分からないが、いずれにしても小学生なのは間違いない。


「君等、お父さんやお母さんは?」


 片膝をついて、目線の高さを子ども達に合わせ、なるべく優しく聞こえるように尋ねる。


「わかんない、はぐれちゃって」


「……そっか。取り敢えずここは危ないし、どこかに逃げよう」


 とは言ったが、今はそれどころではない。


 袈刃音はコンビニの中に視線を向けた。

 子ども達が散々騒いでいた場所だが、それに反応してゾンビが姿を現す気配はない。


「よし、あとで戻って来るから、皆暫くここで静かに隠れてて。ゾンビに見つからないようにね」


 幸い、薙沙のいる場所からここまではそう遠くない。後で拾って帰れるだろう。

 口の近くで人差し指を立てつつ言う袈刃音に、子ども達は大きく頷いて答えた。


 ――これで一旦、こっちは問題なし。急がねぇと……。


 再び少年は駆け出した。

 向かう先は鹿羽市に唯一ある百貨店だ。



















文月です。


今回の章も、段々と戦闘描写が増えて参りましたっ。

ヒリヒリ、そしてハラハラする展開に持っていければな、と思っておりますのでご期待ください!


【・ご案内】

 下の★★★★★の部分は、読後、ぜひ本作の評価にお使いください。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》





【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】

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