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第81話2□d ST◇GE C■EA▽?

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 神の創り出す領域は特殊だ。


 光すら届かない海底であったり、火炎の広がる広大な大地であったり、上下左右から暴風と激しい雨が押し寄せて来る足場のない天空に囲まれた世界なんてものもある。


 そういった災害のような領域に比べると、遊戯神の創造した領域は随分と手狭で物寂しい。

 暑過ぎず寒過ぎず、音に乏しい暗闇に包まれた場所。不思議なのは、光源がないにも関わらず、見ようと思えば闇の中を見通す事が出来るという事だ。


 無論、遊戯神からすれば、ここはありとあらゆる遊びを満喫するために拵えた快適な部屋のような物でしかなかったが。


 しかし現在、その遊戯神に笑みはない。


「……」


 胡坐を搔きながら、幾万の遊戯を統べる神は眼下のチェスの盤面を見つめる。

 右手で摘まんだ駒は、盤上で目的地を見失っていた。


「どうも……どうも思ったように事が運ばない。あれだけ使徒を下界に送ったというのに、向こうの駒の一つも獲れないとは。困ったな、計算が狂った」


 袈刃音には、一寸先も見通せない闇の中で逃げ惑いながら、手足を一つずつ失っていくような絶望を味わってもらう必要があった。

 故に、その最初の一手目に全てを守り切れた、などあってはならなかった。

 即刻策を練り直すべきだ。


 とはいえ、他の神々からの受けは存外良かったらしい。

 向こうも流石に、毎回こちらの筋書き通りであってはつまらなかったのだろう。


 悩ましいと感じつつ、そういえば、と遊戯神は袈刃音が【基地システム】を使ったのを思い出す。

 そうして、口を鋭く開いて笑みを浮かべる。


「ふっ、そうか、アレを起動したのだったね。じゃあ――このまま、行こうか」


 ◆◇◆◇◆


 ――同時刻、「さくらい」に続く下り坂にて。


「さて、カバネ君達も間に合ったみたいだし、これで俺も一息つける」


 施設の方を一瞥したビャクヤは、能天気に両手を後頭部へ回しつつ歩を進めた。

 こちらに押し寄せて来ていたゾンビは、袈刃音が全滅させた。


 静寂を取り戻した道路は血に汚れ、平和とは程遠い光景となっているが、それでも不死者の脅威はなくなった。


「あ、あのビャクヤさん、終わったんですから中に入りましょうよぉ。何で外になんか出るんですか、皆玄関の奥に向かいましたよ!」


「どーかな、俺はまだ()()()()と思うけど」


「残ってる……って、え、何がですか。も、もしかしてゾンビとか言わないですよね?」


 ビャクヤについて来た一条新奈は、ビクビクと怯えながら、彼の蒼い瞳を覗き込むようにして尋ねた。

 質問に対するビャクヤの返答は、肯定でも否定でもなかった。


「ゾンビ、か。だとして……ニイナ、ちょっと不思議に思わないか?」


「え、不思議ですか?」


「そう。確かに俺達はテラの力で閉じ込められ、気付かぬまま数日を無為に過ごし、その間に町のゾンビの数は増えたかもしれない。けど、こんな人の少なそうな場所に、しかもこのタイミングで、理由もなく何百体ものゾンビが一斉に集まるなんて変だろう、っていう話」


「あぁ、言われてみれば……」


 施設に向かう以前、新奈達のいた駅近くの方面ならまだ人が多く、何か問題が起きていてもおかしくはない。

 が、ここは住宅街から離れており、近くに目立つ店があるわけでもない。地元民の新奈でさえ、この辺りにはほとんど足を運ぶ事がない。


 ビャクヤの指摘した奇妙な事態に、ようやく少女も気付く。


「これが人為的なものだったとして、あれだけの数の死体を呼び寄せるとなると、かなりの手間が要る作業だろう。ゾンビが増えていて、自分達の事で一杯一杯の連中ならなおさらキツイ。果たして、今この町にいる人間に、そんな大規模な嫌がらせをする気力があるか。あるわけがない。――とすると、答えは一つ。そう、この状況を作ったのは神の使徒だ」


 言いながら、突然ビャクヤは立ち止った。


 彼の背中に新奈の顔面がぶつかる。

 どうしたのかと、新奈は眼鏡のレンズ越しに坂道の先を見やる。


 そこには、陽炎(かげろう)のように景色が歪んでいる空間があった。

 いや、それにしてはあまりに局所的。まるで、そこに存在する強力な重力によって景色がねじ曲がったようだ。


 新奈は見間違いでもしているのではないかと、眼鏡の位置を直して再び遠くを見据えた。

 と、その時、ぼやけた空間の奥から人影が現れた。

 一つ、二つ……いや、合計六つか。どこか覚束ない足取りで、こちらに向かって来ている。


 ――そう、ゾンビが新たに現れたのだ。


「使徒の力というのは、神から与えられたもの。その中でも、テラの能力は凄まじい。条件さえ整えば何でもあり、こんな風に、いないはずの場所へゾンビを送り込む事だって出来る」


「そ、そんなッ。じゃあビャクヤさん、まだこの騒ぎは……」


「な?世の中って理不尽で残酷だろ。にしても……ふーん、今回は時空を歪めて複数の空間とここを繋げてるのか。やるなぁ、流石トゥラヌアの妹」


「言ってる場合ですか!」


 ビャクヤの言う通りだとすれば、ゾンビはまだ、あのぼやけた空間から幾らでも湧いて出て来るという事になる。

 使徒だとか、神だとかについては未だによく分からないままだが、どうして彼は全員にこの危険を伝えなかったのか。


 焦りを見せる新奈。

 しかし、一方のビャクヤは驚く程に落ち着いた様子だ。


 それもそのはず。


「まぁ、これくらいカバネ君なら余裕で対処出来ると思うけど。シャーが真っ二つにした建物、【想焔】で消し飛ばしてたし。――()()()()()()()()()()()()


 ビャクヤは独り言を漏らしつつ、胸の近くまで持って来た右の拳を静かに崩した。

 そうして、彼は再び口を開き、


「【破炎(はえん)】」


 口の中で呟くと、青年の掌の上に純白の炎が姿を現す。


 ただ白く、一切の穢れを寄せ付けない輝き。

 炎は夜の近付き始めた世界で激しく揺らめき、その熱気により周囲の空気が大きく震えている。


「触れたモノ全てに破壊をもたらす炎、俺の――第一【守護者】の炎。カバネ君とどっちが熱いんだろう。なぁ、テラ、遊戯神、ちょっとだけ興味が出て来たよ。だから……彼、俺がもらうね」


 その直後、全てが消え去った。

 迫る不死者も、テラの力で歪んだ空間も、文字通り全てが放たれた白い炎の中に消えて行った。


「さて、用事も終わったし、早く戻るよニイナ」


 ◆◇◆◇◆


 ――同時刻、某中層ビルの三階。


 暗くなり始めた窓の外の様子を眺めながら、もう夜なのだと朝比奈旭は溜息を零した。

 あれから、袈刃音を探すために動き始めた。しかし、結局今日まで何の成果も上げられていない。


「ゾンビ……」


 眼下の光景に血塗れの人影を見つけた少女は、小さくその存在の名を口にした。


 ここ数日でゾンビの数は異常なまでに増えてしまった。

 移動を開始した初日以降は、奴等に見つからないよう動く事に必死だったように思う。


 袈刃音と離ればなれになってしまったあの廃工場には向かえた。

 が、既に彼の姿はそこになく、代わりに残っていたのは所々が砕け、ひびの入った地面と燃えたような跡。


 袈刃音の行方は不明なまま。


 ただ、何も起こらなかった訳ではなかった。

 昨日()()にも藍刃愛羅と出会い、旭達は彼女と行動を共にすることになったのだ。


 意外だったのは、愛羅の索敵能力の高さだ。

 ゾンビから逃げつつ行動する中で、いち早く奴等の存在に気付き、安全な場所まで案内してくれたお陰で危ない場面を何度も避けられた。


 もっともその一方で、何故か旭を見る目が若干怯えている時があったり、暗い顔をしている時があったり、心配に感じる面もあったが。

 それでも、彼女のお陰で今の所、誰も欠けずにここまで来られている。


 それに、


「何してんだ、朝比奈。一人でいると危ないぞ」


「ぁ、霞雅君……。今行くね」


 背後から声を掛けられ振り返ると、そこには――霞雅阿久弥がいた。

 彼とも昨日出会ったのだ。


 袈刃音を虐めていた張本人。良い印象なんて欠片程もないが、今はとにかく人手が必要だった。


「霞雅君、あの、本当に袈刃音を探すの手伝ってくれるの?」


「おぉ、俺に任せろ。一緒に来たダチ、あの三人にも手ぇ貸すよう説得したし」


「そ、そうなんだ。ありがとね」


「ほら、行こうぜ」と踵を返し、先を歩き始めた霞雅の背中を見つめる。


 正直に言えば、その連れて来た友達というのも当然信用ならなかった。

 今はこちらを助けてくれているかもしれないが、もし袈刃音を見つけたら、彼等は大人しくしているだろうか。


「……」


 旭は腰の方へ右手を向かわせると、指先で刀身の歪んだ短剣に触れた。

 ほんの数日前、あの廃工場で袈刃音の命を奪うために手渡された危険な武器が、今はとても心強い。


 不安を掻き消すように、旭は己の心に言い聞かせた。

 大丈夫だ、今度は自分が袈刃音を守ればいい、と。



 ――薄闇の中、霞雅が醜悪な笑みを浮かべたのにも気付かぬまま。

















文月です。

祝・PV20000、200000字、第2章完結!


ここまでお読みくださった方々、応援してくださった方々、ありがとうございますっ。

お陰で何とか書き上げる事が出来ました。


さて、次回からは3章のお話となります。

初めの部分なので、ちょっと執筆スピードが遅くなるかもですが、気合を入れて書いて行こうと思います。


【・ご案内】

 下の★★★★★の部分は、読後、ぜひ本作の評価にお使いください。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》


すみません、今週の投稿(23日予定)はお休みさせてもらいます。

→【2024/06/22(土曜)、追記】


【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】





















【本当に、進みますか?】

【→はい/いいえ】

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