第75話身を守りますか?
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驚いて一歩後退った時には既に遅かった。
奇声を上げながら襲い掛かるゾンビに、満実は押し倒され――。
「く、ぅっ……!」
眼前、垂れ下がった前髪の毛先が触れる程の距離。
馬乗りになったゾンビの顔が近づく中、満実は薙刀の柄で押し返す事で、間一髪、噛み付かれるのを防いでいた。
しかし、肉体の限界を忘れた死者の膂力は凄まじく、この状態も長くは持たない。
徐々に不死者の大口が迫って来る。
「こんのっ、離れろ!」
満実が死を予感したまさにその時、横から聞き馴染みのある声がゾンビを蹴り付けた。
生ける屍の体は砂利の上を転がり、彼女の近くに這い蹲る。
見上げると、そこにはいるはずのない少女の姿があった。
「大丈夫⁉マミお母さん!」
「る、瑠璃ちゃん……っ?」
「話は後、逃げるよ」
そう言って、瑠璃は満実の腕を掴んで立ち上がらせようとする。
しかし、その最中、満実は崩れた塀の外から現れたもう一体のゾンビに気付く。
血糊で染まった手が向かう先は、自分を助け出そうと急いている少女の方だった。
「ダメ!」
咄嗟だった。
瑠璃の手を振り払い、次の瞬間、彼女を守るように一歩踏み出す。
両手の薙刀をグッと握り、満実は体重をゾンビの方へ傾け――そして刀身を突き出した。
心臓を貫かれた事で絶命したゾンビ。
けれど、まだ終わっていない。
まだもう一体が生きている。
「危ない、左!」
「――っ!く……はぁッ!」
満実は瑠璃の声でその存在を思い出した。
薙刀の刀身をゾンビの胸元から引き抜き、目一杯の力で上段から振り下ろす。
響に比べれば寝ぼけた太刀筋で、力も物足りない素人の斬撃だ。
それでも、高所から叩き付けた鋭利な鋼鉄の塊は、容易に不死者の首元からあばらまでの肉を斬り裂いた。
「「……」」
静寂が訪れてから少しして気付く。
呼吸が乱れ、胸の鼓動が自分でも聞こえる程に大きく速くなっている事に。
それは危機的状況での興奮によってなのか、それとも、もう死んでいるとはいえ人に刃を向けた事による一種の恐怖からか。
彼女には判断が付かなかった。
ただ、胸に押し寄せかけた思考の波も、遅れてやって来た安堵の波に飲み込まれて消える。
地面に立てた薙刀に掴まりつつ、満実は力なくその場に崩れ落ちた。
「はぁ、危なかったぁ……」
エプロンは、正面からバケツのペンキを引っ掛けられたように、返り血で真っ赤になっている。
けれど、そんな事よりも今は二人の無事の方が重要だった。
何か一つでも間違っていれば、きっと命を落としていた場面だったから。
「ホントだよ。アタシが来なかったら死んでたんだからね、マミお母さん!」
「ま、まぁまぁ、怪我とかしてないし良いじゃ――「良くない!」――わぁ……も、もしかして瑠璃ちゃん今すっごく怒ってる?」
「当たり前でしょッ、何で怒ってないと思うワケ!?」
適当に微笑みながら何とか話を穏便に済ませようとする満実を、瑠璃は思い切り叱り付けた。
けれど、一転、その表情が曇る。
「やめてよ、何でこんな危ない事一人でしようとするの。マミお母さんが死んじゃったら、アタシ……」
「る、瑠璃ちゃん」
「響だって二日も帰って来ないし。もう、ホント最低!……帰って来たら無茶苦茶叱ってやるんだから」
今にも泣き出しそうなのを堪える瑠璃を前に、その心の内を察した。
だから、満実は彼女を安心させるように、努めていつも通りの笑顔で言葉を返す。
「じゃあ、お母さんは響ちゃんを慰める役しなくっちゃね」
「何かそれ、私だけ嫌な役にやる事になっちゃわない?ズルいんだけど」
「ズルくありませーん。だって、これはお母さんの仕事だもん。ふふ」
幾つか言葉を交わしていく内に、瑠璃は調子を取り戻していった。
「何。アタシの顔に何かついてる?」
「ううん、何でも。それよりも、この壁を何とかしないと。確か、申請――塀の修繕を。……これでいいのかな」
今のゾンビとの戦いで、集めたポイント総数が初期ボーナスポイントを含めて300になった。
響や袈刃音を真似てポイントを250消費すると、粉々になった壁の残骸が不思議な光の粒子に包まれる。
かと思えば、ビデオ動画を逆再生したように塀が修復されていく。
「良かった、直った」
これでゾンビの侵入は防げたはずだ。
「気を付けて戻らないと……ゾンビがいるかもだし。瑠璃ちゃん、お母さんから離れないでね」
「はぁ。少なくとも、一人で離れて危ない目に遭った人が言う台詞じゃないと思うけど。うん、戻ろっか」
帰り道はそこまで遠くない。
来た道を――裏庭の突き当りを左に曲がって、それから真っ直ぐ進めば、瑠璃達と出会ったあの通路が近くに見える。
とはいえ、既に侵入してしまっているゾンビの存在には細心の注意を払うべきだが。
もしもの時、頼みの綱の薙刀を両手に満達は先へ進む。
「そういえば、何でお母さんがあそこにいるって分かったの、瑠璃ちゃん?」
「絆創膏だよ」
「絆創膏?」
「そっ。ウチの無駄に元気なチビ達がいつ怪我しても大丈夫なように、常に大量に持ち歩いてるでしょ?アタシ、お母さんが絆創膏切らしたトコ、これまで一回も見た事ないもん。それが足りないなんて……絶対嘘じゃん」
「あはは、絶対なんだ……」
満実は苦笑いを浮かべつつ、言葉を返した。
相変わらず周りをよく見ている子だ、鋭い指摘である。
もっとも、そのお陰で先程のように助けられる事が多いのだけれど。
ただ、デスゲームの開始から日を追う度にそれが顕著になっていっているのは、果たして本当に喜ぶべき事なのだろうか。
裏を返せば、それは事態が刻一刻と悪化しているという事でもあったから。
「今年は、皆のお誕生日会、無理そうだね……」
「っ!そ、そんな事。その、ほら、プレゼントは流石にアタシも無理だと思うけど、ちょっとしたパーティーくらいなら大丈夫だと思うし……。だから、絶対しよ?マミお母さん」
瑠璃の言葉に直ぐ返事を返せなかったものの、満実は直ぐに思い直す。
「うん、そうだね」、いつものような笑顔で彼女が発しようとした台詞は――突然の悲鳴によって遮られた。
文月です。
投稿が遅れてしまって申し訳ありません。
最近ちょっとこういう事が多いなと思ってはいるのですが、すみません、しばらく続くかもしれません。
原因はハッキリしていて、単純にリアルが忙しくなり始めたのと、この前言っていた実験で執筆量を増やそうと2作品同時連載を始めた所為です。試行錯誤中でして。
→しばらくはカクヨムでのみ投稿していこうと思いますが、何話か溜まればなろうの方でも投稿していこうと考えてます。
興味のある方は、気長に期待して待っていてください。
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