第73話危険を選びますか?
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今までは、ゾンビに見つからないよう、部屋に身を隠している状況だった。
満実も子ども達には大人しくするよう注意はしたが、いずれそれに飽きて騒ぎ始める子が出るに違いなかったから。
筒彌の様子も気になっていた。
何かあった時、素早く対応可能なように見守る意味でも、満実は室内にいなければならなかったのだ。
しかし、部屋の外にいる子ども達を放っておくわけにもいかなかった。
帰って来るまで何事も起こらないで、と祈りながら満実は薄暗い通路の中で足を速めた。
一応、筒彌と共に「さくらい」へ逃げて来た男性に自分の代役を任せた。
ゾンビに怯えていて、頼りない感じは否めなかったが。
「……」
標高の高い山にでもいるような空気の薄さを感じる。
実際には、ここが高山でも何でもなく、施設の便所に通じる最短ルートの上である事など満実が一番良く理解していた。
恐怖から来る持続的な緊張が、肺に取り込む酸素の量を極端に減らしているのだ。
薙刀を握る握る両手の力が一層強くなる。
昔から運動は得意な方ではなかった。
今はここにいない友人や響から薙刀の基礎は教えてもらったが、大して扱いは上手くならなかった。
けれど、あの死なない怪物から家の子達を守るにはこの刃だけが頼りなのだ。
分かっている。
自分が現在、最優先して取るべき行動は子ども達の捜索と保護。
戦うという考えは本当に最後の手段でしかない。
「……?」
建物と建物を繋ぐ、外の短い通路の近くまで辿り着いた時だった。
その扉の前から声が聞こえた。
もしかして、と満実は引き戸を勢い良く横にスライドさせた。
「良かった、皆いたっ……」
外に出ると、丁度子ども達が向かいの通路の出入り口から出て来たところだった。
満実の顔に安堵の色が浮かぶ。
「?何、どうしたのマミお母さん?」
「う、ううん……何でもないよ、瑠璃ちゃん」
胸元まで届く長い黒髪に青色のメッシュを入れた少女――青木瑠璃は、響と同じで「さくらい」では最年長の子だ。
身長は低く気だるげな瞳の所為で勘違いされがちだが、しっかり者で、髪やカラーコンタクトなどのオシャレもちゃんとバイトで稼いだ給料の範囲内で楽しんでいるし、他の子達の面倒見も良い。
トイレが我慢出来なくなった子達を連れて行くと言ったのも、彼女からだった。
「あっ、じゃあ――」
「戻ろっか」と言いかけて満実は口を噤んだ。
心に余裕を取り戻した事で、今度はあの窓の外にいたゾンビの存在が気掛かりになった。
分かっている、今は「さくらい」が大量の不死者に襲われている状況だ。
満実達はほとんど戦力にならず、寧ろ足手纏いになるのを千華や真白、クロノに指摘されて隠れているように言われている。
きっと、直ぐに部屋に戻るべきだ。
しかし、水面下で起きている異常を知っているのは、現状では満実だけ。
逡巡は数秒か一瞬か。いずれにしても、決断に大して時間は必要としなかった。
「じゃあ皆、先に部屋に戻っててね」
「えっ、マミお母さんはどうすんの?アタシら部屋でいろって言われてたじゃん。薙刀なんか持ってどこ行くつもり」
「だーいじょうぶ、これは護身用だから。ちょっと、絆創膏が足りなくて」
「ふーん……」
咄嗟についた嘘だったが、それらしい言い訳のお陰で納得したのか、瑠璃は胡乱気な視線を取り下げてくれた。
「んじゃ、気を付けてっと……ほら、行くよチビ達」
瑠璃達が去って行ったのを見送ると、満実は静かに深く息を吐いた。
やはり緊張している。
それでも、今はあのゾンビがどうして施設に入って来れたのか調べなければ。
文月です。
ちょっと今回は短めでした、すみません。
次回は3月末か4月の頭かと思います。
「第七魔眼の契約者」も書かないとなので、どうだろう、ちょっと分かりませんが頑張ります。
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