第68話力を取り戻しますか?
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敵は想定よりもずっと幼く、小柄で、針のように細い少年だった。
そして、恐ろしく強い。
「恋、下がってッ」
振り向いた直後、こちらを襲って来た袈裟斬り。
その未熟な体躯からは到底想像出来ない程に重い斬撃だ。
――それを、響は渾身の力で振るった薙刀で迎え撃つ。
ブチブチ……ッ。
最中、左腕に鋭い痛みが稲妻のように走る。
あまりの負荷に筋肉が軽く切れた。
「ッ。くっ……あぁ!」
だが、歯を食い縛って疼痛に耐え、シャーエイドロードの攻撃を受け流した。
咄嗟に間合いを取って響は敵を見据える。
柄ごと折れた薙刀の切っ先が地面に落ちて転がり、乾いた金属音を鳴らした。
少年の形をした怪物が響に向けたのは嘲笑。
「今のは良かったですよ。どうやって奇襲に反応したかはさておき、【シャルナ】がいなされるのは予想外でした。ただ……その様子だと次はなさそうです」
【守護者】の刃が得物を失った少女を捉える。
薄闇を纏う刀身は炎のように揺らめき、僅かに勢いを増す。
熱もなく、万物を影で飲み込んでしまいそうな危うさすら孕んで。
しかし、
「なっ――動け……どうして」
突如として、シャーエイドロードの攻撃行動が止まった。
否、止まったのではない、体が言う事を聞かないのだ。
どれだけ肉体に力を籠めようと、それ以上は腕が足が前に進んでくれない。
「動けないのは当然だよ、君のターンは終わったんだから」
「ッ?」
困惑の中、響の声がシャーエイドロードの耳に届いた。
そうしてようやく気付く、これは彼女の仕業なのだと。
「【コマンドバトル】。プレイヤーと敵で行動選択を代わる代わる行い、戦いを繰り広げていくシンプルなゲーム。私が一番好きなゲームだ。――スキル発動中は、そのシステムが現実で使えるようになる」
そう。これこそが欲望と暴力の蔓延るゲーム世界にて、脆弱な少数勢力を率いながらも、巨大勢力とさえ渡り合って来た上位プレイヤー・湖窓響の固有戦術。
ターン制バトルを自身と敵に強制し打ち倒す、近接戦最強格の能力。
過去に幾度も戦場を共にしたその力を、既に彼女は取り戻していた。
自分のターン中とはいえ、無期限の足止めは不可能。
ただ、【コマンドバトル】の真価はそこにない。
「行くよ、【攻撃コマンド】」
攻撃を選択直後、響は全身に血のような紅蓮のオーラを纏い力が漲るのを感じた。
懐かしい感覚だ、力を手放したのはたった数日前なのに。
だが、このスキルがどれ程の威力を誇るかはよく覚えている。
次の瞬間、少女の体が導かれるように敵との距離を爆発的な速度で詰め、
「一撃目、二撃目」
放たれたのはコンパクトで素早い左の拳ッ、右の鋭い正拳突き!
「三撃目ッ」
流れるような動きで前蹴り、そして――
「四撃目」
重い回し蹴りがシャーエイドロードを狙うも、剣で受け止められる。
だが、これで終わりではない。
炎のように猛り、しかし火炎よりも紅い全身のオーラが、一瞬にして右手に集束し薙刀を形作る。
その輝きは火炉で熱したかのように、鋭さは業物のように。
赤々とした刃が虚空を切り裂き進み、
「五撃目!っらぁッ」
「ぅお、わ……!?」
堅牢な【守護者】の防御を突破し、吹き飛ばした。
最後の一撃を終えると同時、薙刀が光の粒子となって消え、響は肉体から力が抜けるのを感じた。
ターン終了の合図だ。
……依然として、シャーエイドロードには傷一つ負わせられていない。
「ザンネン。悪くない斬撃でしたが、弱い」
膝すら付かず体勢を立て直し、白衣の小さな怪物は不敵な笑みを浮かべる。
攻守の順番は既に逆転を果たしたが、もう重機のアームでも降ってきたようなあの重い斬撃を受け止める武器はない。
この後に待つのは血に塗れた敗北。
「だとしても、まだ君のターンじゃない。悪いけど、フフ……私達のターンはこれからだよ」
「ん……?」
悪あがきはこれでお終いだというのに、勝ち誇ったような笑みを崩さない響。
不審な反応にシャーエイドロードは眉を歪ませた。
だが、その答えは、突如足元に差した影によって知る事となる。
「まさかッ。――!?」
咄嗟に視線を真上に走らせた時には既に遅かった。
頭上、手を伸ばせば届きそうな距離にまで降って来た三浦袈刃音。
硬く握り締めた拳には、かつてない程に濃く深い闇。
「【想焔】」
そうして、破壊の権化と化した純黒の焔が、凄まじい崩壊の音を搔き立ててながら爆ぜるようにして広がった。
文月です。
やっと17万字、ちょっとペースが遅いかも?ともあれ、2章は20万文字までを考えていますので、もう少し。
そろそろ3章どうするか考えなければ。
それについては、また追い追いお知らせさせて頂きます。
次回は、1日、2日投稿遅れたらすみません。多分大丈夫だと思うのですが、一応。
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