第67話任されますか?
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時は数分前に遡る。
無事に月山来道を発見し、湖窓響は既に合流場所の一階に辿り着いていた。
「皆、外に出ようっ。私に付いて来て、なるべく音を立てないように」
響の静かな指示が、エントランスに集まった者達に伝わる。
扉の向こうでは、先程彼女が遠くへ投げたボール型のアラームにゾンビ達が群がっていた。
【ポイント】消費で取得した囮用の警報機が、予定通り設定時間後に起動し、しっかり役目を果たしてくれている証拠だ。
全員の足が、泥濘に沈んだようになる。
果たしてこのゲームフィールドから出ても問題はないのだろうか、シャーエイドロードに殺されはしないだろうか。
そんな不安の所為で戸惑っているのだ。
しかし、出口の先で待つ響の視線が、彼等の手を取って外へと引っ張る。
恐る恐るといった形で、各々が足を前に進め始めた。
脱出は一先ず成功した。
アイテムはかなり遠くへ投げたし、余程大きな音を出さない限り大丈夫だろうが、念のため慎重に動く。
「……よし」
移動する人数は二十人前後で、全体行動にも多少時間がかかるけれど仕方ない。
誰もこういう状況に慣れていないのだから、雑な避難は危険だろう。
下手をすると最悪の事態を招きかねない。
「ひ、響」
皆を待っていると、見慣れた少年が小走りでこちらに近付いて来た。
「……恋」
ついさっき、最上階からとある青年に抱えられて降りて来て、再会したきりだったか。
少し前まで泣いていたのか、目元がやや赤くなっていた。
「怪我無くて良かった」
「あ、あぁ。けど……」
そう言って、恋はビルの一番上の階に目を向けた。
詳しくは聞けていないが、あそこでは今、袈刃音が敵を食い止めてくれているはずだ。
「心配?」
「いや、そんな事っ。……その、アイツ、ワケ分かんなくてさ」
アイツ、とは袈刃音だろう。
複雑そうな顔で紡がれる少年の言葉に、響は耳を傾ける。
「他人脅すし、おっかない目で睨むし、多分何人か人殺してるだろって感じで。なのに、俺なんか逃がすから。あんな怪我してまで、何で……」
話を聞いて「相変わらずだな」と響は思った。
恋の反応も、袈刃音の言動も全部。
前の世界でも袈刃音の理解者は少なかった。
『お前、よくも……ッ』
ある時、裏切り者が響の勢力で出た。
ゲーム開始から幾月も過ぎた頃になると、そこまで珍しくもない話だ。
プレイヤー同士で集団を作れば大抵不満は蓄積するし、そうでなくとも、敵プレイヤー勢力の差し金でそういった輩が他のグループに忍び込んでいる可能性だってある。
響の場合は後者だった。
『一体何人が死んだと思ってる。お前の所為で私の家族がッ。お前の、所為で……!』
『は、ははっ。でも響ちゃん、本当にアタシを殺せるの?皆の前でさぁ』
仲間達が続々と駆け付けて来たのに気づいて、響の薙刀の切っ先が力なく地面へ落ちた。
敵の少女は、彼等からそれなりに信用されている人物だった。
たとえ真実を明かしても、恐らく信じてくれる者は少ない。
それどころか、今ここで彼女に刃を向けてその命を奪えば、響は全員から味方殺しのレッテルを貼られる。
眼前の少女はそれを分かって裏切ったのだ。
間違いなく、最悪の状況だったといえる。
――そんな時、共に行動していた袈刃音が、一切の躊躇なく裏切り者を殺した。
酷い断末魔の声が虚空に消えていった瞬間、響は勢力崩壊の危機を免れたのを悟った。
最善の選択だった。少なくとも、敵の術中に嵌まったまま、これ以上誰かが死ぬ可能性は消えたのだ。
だというのに、その事実を知る者は誰一人としていない。
何かある度にこうだった。
守りたいもののために力を振るい、けれど周りからは恐れられ、罪人の烙印を押される。
袈刃音が響のグループから離れざるを得なくなるまで、ずっと。
それが心の中でずっと引っ掛かっていた。
「袈刃音はね、『泣いた赤鬼』なんだよ」
「鬼……」
「そう、自分が悪役になって、皆に嫌われる青鬼の方。一人じゃ抱えきれない癖に、「慣れてるから」なんて下手な嘘ついて、そうやって最後にいなくなるんだ……」
確かに袈刃音は、忍び寄る悪意から誰かを救えたのかもしれない。
守れたのかもしれない。
けれど、それはどうしようもなく報われない生き方だとも思う。
だから、
「だから、恋にはちゃんと見てあげて欲しいんだ、袈刃音を。もうどこかに一人で行ってしまわないように」
地獄なら一度味わった。
両手に抱えきれない程の過ちも繰り返して来た。
どれだけ取り繕っても、正義であるとは決して口に出来ない残酷な記憶で、やはり誰にも見せられない。
それでいい、ここから全てやり直す。
失敗も、家族もこの手で取り返して見せる。
そして欲張りにもう一つ願うのだ、叶うなら、今度こそ袈刃音が君でいられる世界をと。
そのために、描いた理想を現実にするために、湖窓響は――。
「うん、大丈夫だよ袈刃音。私が何とかする」
両断され使い物にならなくなった薙刀を放り投げ、響は敵を――自身の影から現れたシャーエイドロードと向き合った。
文月です。
少々遅くなりました。
誤字脱字とか、矛盾点とかちゃんと見れてないので、話がおかしくなっていたりしましたら、気軽にお知らせ頂けるとありがたいです。
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