第65話【想焔】を駆使しますか?
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敵へ視線は向けたまま、袈刃音は右手に【想焔】を纏わせる。
「ほう、それをどうするので?」
「こうすんだよ、ッ!」
右腕を横へ素早く払う。
その勢いによって放たれた【想焔】が、シャーエイドロード目掛けて走った。
焔は容易く剣に切り伏せられる。
「何とも拍子抜けな」
剣を再び足元の影に突き刺し、あの奇妙な斬撃を仕掛けるシャーエイドロード。
しかし、
「なっ」
影に潜り込んだ刃は、袈刃音を狙い飛び出して来れなかった。
――当たりだな、やっぱコイツは……。
シャーエイドロードは、恐らく影に関係する異能力の使い手。
奴の今までの動きを見る限りだと、その可能性が高い。
あの神出鬼没の剣も影を介しての攻撃だろう。
だとすれば、対策は難しくない。
暗い部屋に陽光が満ち、見る間に影を端へ追いやった。
そう、袈刃音が先程の【想焔】は攻撃のためではなく、日差しを妨げるカーテンを燃やし尽くすために放った物。
すかさず敵に接近し、鋭い蹴りを放つ。
咄嗟に大剣に形を変え、剣の腹で攻撃を防ぐも、シャーエイドロードの幼い体は軽過ぎる。
吹き飛ばされた。
そうして、着地直前の事。
敵が気付いた時、その背後へ回り込んでいた袈刃音。
少年はシャーエイドロードの襟を掴むと、上に放り投げ――【想焔】を放った。
空中では、素早い回避も、影への潜伏も不可能。
先程よりも暗く、激しい焔が、逃げ場を失った神の【守護者】を襲う。
「くっ……!」
あの変幻自在な剣は相当頑丈らしい。
火力を増した焔ですら焼けず、シャーエイドロードの盾となった。
しかし、
「行け」
「っ!?」
袈刃音の両手が重なる動きに合わせ、二手に分かれた【想焔】がシャーエイドロードを挟み撃ちにした。
左右からの同時攻撃。
いずれも【メモリー】内の負の感情を込めた焔で、威力も高かった。
もっとも、これで殺せるほどヌルい相手ではないだろう。
分かっている。
「ハハっ、どうしたのです?これで終わりなのですか」
焔の中から抜け出し、攻撃を仕掛けて来た敵の大剣を躱す。
激しい衝突音。
それに紛れ、怪しく揺らめくシャーエイドロードの影。
予想通り、攻撃はブラフ。
本命は、この一撃で生まれた隙を狙っての能力の行使。
自身の影に潜り込み、戦いの流れを一気に逆転させようというのだろう。
そうはさせない。
「――っ!?」
シャーエイドロードが着地する寸前、袈刃音は【想焔】をその足元に走らせた。
赤い焔によって影を消され、焔の餌食となる敵。
だが、灼熱が纏わる中で、神の【守護者】が牙を剥いた。
「ぅぐ、あ……がッ」
「甘い……のですよ!」
闇を纏うシャーエイドロードの細剣が、袈刃音の脇腹を刺す。
そうして、剣の柄を一気に押し込まれ――
「つか、まえた……ッ」
「!?」
袈刃音は、その刀身を素手で掴んだ。
鋭い痛みが襲い、血が掌に滲む。
けれど、決して敵の得物を離さない。
次の瞬間、矢をつがえた弓のように、袈刃音は空いた右腕をギュッと引き絞る。
握る拳。
見開く瞳。
狙いは眼前の敵へ。
痛みを堪え。
力を籠め。
「くッ、おぉ……あぁぁぁぁぁぁぁあ!」
直後、激しい衝突音と共に床が崩れ落ちた。
土煙が立ち込める部屋。
先程までの出来事が嘘のような静寂。
瓦礫を退けて、その中から袈刃音が出て来たのはそれから少し後の事だった。
「ぅ、く……」
腕や腹の刺すような痛みを我慢しながら、周りを見渡す。
天井の巨大な穴を見るに、ここは恐らく八階。
はっ、と気付いて、シャーエイドロードの姿を探すと直ぐに見つかった。
袈刃音と同じく、瓦礫の中に埋もれていたが、それを押し退けて現れる。
やはり生きていた。
とはいえ、彼の呼吸はやや荒く、そして、
「――っと……あれ?」
一歩踏み出した瞬間、片膝を地面につけた。
「足に、ダメージが……」
シャーエイドロードは、意外そうな顔でいつもより重い足を見つめる。
が、それも数秒の事。
膝の汚れを小さな手で払いつつ、おもむろに立ち上がった。
口内を切ったのか、ついでにペッと唾と共に血を吐き出し、親指で口元を拭う。
袈刃音に視線を向けると、シャーエイドロードが静かに口を開いた。
「……少し」
「?」
「少し、強過ぎるのですよアナタ。武器も持たずワタシと戦い、死なず、あまつさえ傷を負わせた。……それはもう、【守護者】の領域なのですよ。少なくとも、人間の域をゆうに超えている」
その言葉は、こちらへの称賛としか取れない内容だった。
怪訝そうな瞳を袈刃音は敵に送る。
「怖気づいて、今更になって死にたくないとか言うつもりか?」
「まさか。ただ、少々勿体ないな、と。このままやっても、どうせワタシか他の【守護者】に殺されるのがオチですので」
「何が言いてぇんだよ、お前」
「至極単純な話なのですよ。――アナタも成らないかと訊いているのです、神の【守護者】に」
文月です。
すみません、来週も投稿はお休みさせて頂きます。
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《完了》
【追記】
すみません、投稿は明日(2月5日)になりそうです。
【次の話へ進みますか?】
【→はい/いいえ】




