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第62話ザンネン、時間切れなのですよ

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「やっと見つけた……」


 見たところ、この部屋にいるのは恋だけのようだった。

 来道の方はどうしたのか気になるが、こんな状況で、彼が上手く生き残ってくれていた事に安堵する。

 傷もなさそうだ。


 こちらに気付いたのか、何度目かの鼻を(すす)る音の後、恋は体育座りの両膝に(うず)めていた顔を恐る恐る上げた。

 そうして、袈刃音を視界に入れた瞬間、既に目元を赤くし今にも壊れてしまいそうだった表情が一気に崩れた。


「……っ。何で……お前、なんだよぉ…………」


 そうなってしまえば、涙を我慢するのは無意味だ。

 いや寧ろ、堪えようとすればする程に、大粒の雫が目元から次々溢れ出て目の前がぼやける。


 恋は泣いていた。


「もう大丈夫。帰ろう、探しに来たんだ。響も一緒に来てる」


「……違う、違う」


 何が違うのか、恋は目元の涙を腕で拭いながら首を横に振って言った。


「違う、って……それは分かってるよ、俺が嫌いなんだよな?けど、今は逃げなきゃ。こんなトコにいたら駄目だ」


「違う、違う……ちがう…………ッ」


 どういう事だ?

 何故恋はこうも(かたく)なに動こうとしないのか。


「信じられないかもしれないけど、鹿羽市で始まってるデスゲームは本当の事で……」


 もしかすると恋は事の重大性が分かっていないのかもしれない。


「それに知ってるだろ、ここでも本物のデスゲームが始まってんだよ。影踏み鬼が」


「この部屋に隠れていれば安全」だと考えているのかもしれない。

 そうに違いない。


「鬼になった人間が死ぬんだ。その次の鬼は、どう考えたって建物の中にいる奴しかいねぇだろ。だから、ここにビビッて(うずくま)ってたって、いつかは順番が回って――」

(ちげ)ぇって、言ってんだろ!」


 そこで恋の大声が袈刃音の言葉を遮った。


 震える右手で、少年は自らの胸倉を握り締める。

 バラバラになってしまいそうな心を繋ぎ止めるようにして。


 こちらまで伝わって来る息遣いは荒く、けれど恋は、


「言われなくたって全部分かってる、分かってるんだよ。……もうどうしようもないって、知ってるから逃げないんだ。どんだけ足掻いたって、電車に轢かれた時みたいにグチャグチャになって死ぬって。だって、だって……だって――()()()()()()()()…………ッ」


 嗚咽交じりに自分が立たされている現状を言い放った。


「なん、て……は?ま、待てよ、お前が鬼って――」


 袈刃音はその先の言葉を紡ぎ出せなかった。


 腑に落ちてしまったのだ。


 ここに来るまでの妙な静けさを、疑問に思いはした。

 何せ一階から三階、七階から九階まで、袈刃音は全く身を隠さず動き回ったのだから。


 鬼と出会う確率は三分の二だというのに、その影すらも感じなかったというのは、あまりに不自然だった。

 隠れている人達も、そこまで攻撃的だった訳でもない。


 けれど、恋が鬼だったとするなら全てに納得がいく。

 ここにずっと隠れていて、しばらくの間どこも静かで安全だった。


 たったそれだけの至極単純な話だ。


「……いけよ」


 不意に、恋が消え入りそうな声で袈刃音に言った。


「どっか、行けよ。影踏まれたくなかったら、俺の前から失せろよ。どうせ俺は邪魔だろ?死んだって響に言えばいいじゃねぇか。俺と違って、お前らはまだ助かるかもしれないんだから、だからこのまま――」


「何言ってんだ。だったら、余計早く逃げなきゃだろ!」


 袈刃音は恋の近くまで無遠慮に近づくと、彼の腕を掴んだ。


「ちょ、何やって……!」


 そんな少年の抗議は無視して、無理矢理立たせる。


 事情は大体把握した。

 しかし、今は少しでも時間が惜しいというのが袈刃音の本音だった。

 恋には悪いが多少強引にでも連れて帰るつもりだ。


 ――兎に角、ここから出るにしたって、恋を守るにしたって遊戯神の使徒が邪魔して来るはず。……()り合うには、ここじゃ狭過ぎる。


 一先ずは部屋を出て、もっと開けた場所に移動しなければ。


「やめ、ろッ……放せぇ!俺は」


「いいから。ついて来い、何とかするから」


「……ッ、何で。やめろよ。お前はクズでいろよ、助けようとすんなよ。もう……遅いんだ、俺はもう」





「えぇ。その通り――ザンネン、時間切れなのですよ」


 その刹那、恋の背後から影が膨張して少年の姿を形どった。

 見覚えある白い外套と、貴金属の装身具に身を包んだ浅黒い肌の少年がッ。


「ッ!?」


 少年、(いな)、シャーエイドロードがその三日月のような鋭い笑みを浮かべたのは直後の事。

 そうして、恋が後ろを振り返るとほぼ同時、鮮血が宙を舞った。







文月です。

最近、1話分の文字数が若干少ないのが申し訳ないです。


さて、今年は今話で終わり……と思っていたのですが。

文月的には、焦らして、焦らして、かなり焦らして、それでやっと袈刃音が会敵。

そうして――。という感触です。


ここで1週間空けるというのは、いかがなものか?

「鉄は熱いうちに打て」といいます。正直、早めに投稿(ブチかま)したい。


ので、年末までの投稿、何とかやってみたいと思います!

無理でも、3が日の間に投稿しますので。


【・ご案内】

 下の★★★★★の部分は、読後、ぜひ本作の評価にお使いください。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》





【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】

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