第59話恋達を捜索しますか?
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……まさか、こんな事態になるなんて想像すらしなかった。
非常階段に、乾いた靴音が軽快なリズムを刻んで響く。
薄闇を淡く照らすのは、非常灯と誘導灯の光源の二つ。
その浅緑色の光だけを頼りに、袈刃音は階段を駆け上がっていく。
「ッそ、まだ六階……!」
響と一度別れ、目指すのは七階。
そこから最上階までのどこかにいるはずだ。
葉山恋と月山来道、そのどちらかが。
問題は、この建物が今、神の使徒のゲームフィールドとなっているという事。
影を踏む方に選ばれた人間が、他のプレイヤー探しに躍起になって、周囲へ恐怖と混乱を振り撒いているのだ。
……それが理解出来たなら、ここでゾンビを見かけた理由にも想像がつく。
つまりは、プレイヤー同士で殺し合いが起きたという事。
追われる側の疑心暗鬼が爆発したのだと思う。
誰も信じられなくて、鬼でもない人間すら怪しんで。
いつの間にか皆、自分以外を鬼だと錯覚して、暴力を厭わなくなったのだ。
だとすれば、今の恋達は危険なんてモノじゃない。
正面からやり合って、中学生が大人に敵う訳がないのだから。
兎に角、響の為にも一刻も早く見つけなければ。
「よし……」
目的のフロアに続く扉の前まで辿り着くと、袈刃音は気を引き締めるように肺へ空気を取り込んだ。
「……」
ドアノブを回し、進んだ七階は、不気味な程に静まり返っていた。
通路は一本道。現状、人影はおろか、その気配すら感じられない。
他の階の様子が分からなかったため、非常階段を使って、誰にも存在を気取られないようここまで来た。
袈刃音が現れたから隠れた、という線はまずない。
――全員隠れてる。それか……
生きている人間が、もうここにはいないか。
とはいえ、それは最悪の場合だし、もしそうなら相応の痕跡が近くに残っているはず。
まだ前者の確率の方が高い。
――クソっ、どっちにしても、悠長にしてらんねぇ。早くッ……。
漠然とした危機感だけが、袈刃音の焦燥を煽っている。それが嫌だった。
この建物が静か過ぎる所為だ。
一体今、事態がどのくらい切迫しているのか掴めない。
現状は何ともないが、いつ何が起こってもおかしくないのだ。
あるいは、もうその途中である可能性だって……。
今はただ、恋と来道の無事を祈って走るしかなかった。
「七階は、これで全部か」
部屋を全て探し終えた袈刃音だったが、結局、恋達の姿は見当たらなかった。
次は八階。
同じように非常階段を使って段を上っていくが、やはり、この建物の静けさが気になる。
七階にゾンビが複数体いたのに、プレイヤーが一人もいなかったのは、仮に偶然として……。
それにしても、
――鬼が探し回ってる、っていうには騒がしさみたいなのが足りないだろ?どう見たって。
三階にいた男性も、袈刃音達が来るまではずっと隠れていたし。
少年の中で、加速した疑念。とはいえ、その疑問を深く考える前に、八階へ到着し――
「うぉ」
「!?きゃッ!」
先へ進もうとした瞬間、非常階段の扉が勢いよく開かれ、向かって来た若い女性とぶつかった。
慌てて受け止める。が、例の女性は袈刃音に気付くと、怯えたように後退った。
「や、やめ、お願い殺さ――」
「あぁっ、いや大丈夫!大丈夫。殺さないし、俺、鬼じゃないです。だから、落ち着いて下さい」
彼女の両肩を掴んで、落ち着かせるように袈刃音は言った。
少し冷静になったのか、安堵の表情を浮かべたのが見えた。
しかし、彼女は何かを思い出したように、顔を恐怖で染めて後ろを振り向いた。
「ヒッ!?」
見れば、ゾンビがその直ぐ前まで迫っていた。
袈刃音は女性の庇うように前に立ち、バールでゾンビの顔面を叩く。
仰け反ったゾンビが僅かに後退し、もう一度、今度はその鋭い先端で喉を掻き切った。
絶命する不死者と周囲の安全を確認し、一呼吸する。
「もう、出て来ても大丈夫ですよ」
「……へぇ?」
緊張の糸が切れたように、女性はその場にへたり込んだ。
袈刃音は屈んで、そっと彼女に手を差し伸べる。
「立てますか?えっと」
「あ、う、うん……。ありがとう」
「いえ。それより、ゾンビに追われてたみたいですけど、この階で何があったか教えてもらえますか?」
「ゾンビ。やっぱりアレ、ゾンビ……だったんだ…………。じゃなくて。あの、その。えっと、私ここにインターンに来ただけ……なので、誰がどうとか、ちょっと上手く説明出来なくて。そ、それに、詳しい話なら多分あの二人の方が」
「……?」
女性は立ち上がって、頼りなさげな顔で右側の通路を見た。
釣られて、袈刃音もそちらに視線を向ける。
誰もいない。そう思ったが、少しして、向こうの扉が開いた。
「あれ?二人いる?」
「え!ホントですかビャクヤさん!?やった、まともな人が二人に増えたぁ」
見えたのは、きょとんとした表情の青年。そして、何故か歓喜と安堵の声を上げている、黒縁の眼鏡少女の二人だった。
文月です。
師走の12月。
という事で、ストーリーも急ぎ足で進めたい……のですが、リアルの方が忙しくなりつつありまして。
すみません、お知らせです。
【お知らせ】
次回は確実に投稿が数日遅れます。お休みではないです、はい。
遅筆なのが悔しいっ。
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《完了》
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