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第52話影踏み鬼を始めますか?

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「そういや、近くにちょっとデケェ建物あったよな」


「え、でもそれってマンションでしょ?勝手に入ったら怒られるよレン君」


「わーってるっての。何か目立つから言ってみただけだよ。あれ以外目につくもんなんてねぇしさ」


「スーパーとか図書館とか、色々あるのはその向こうの方だもんね」


 来道(このみち)の言う通り、確かにこの辺りは閑散としている。

 坂を上った先の方面にある駅付近は店やらが密集しているが、ここまで来るとそうでもないのだ。

 その上、道も狭いので人通りが少ないのにも納得がいく。


「図書館、か……じゃ、そこで決まりな。今いるところからだと一番近いし」


「そうだね。静かだし、あそこなら何かあっても直ぐに帰って来れるし」


「あぁ」


 もっとも、しばらくは戻らないつもりだが。


 とはいえ行先は決まった。

 そう思うと心なしか足が速くなっていく気がした。


「ん?」


 ふと、正面に見えた人影が気になった。


 二十代くらいだと思う、若い男だ。

 黒いズボンと半袖の白いシャツに身を包んでいる。


 だが、足取りが覚束ない。

 うつ向きがちで、どうしてか、一歩こちらに踏み出す度に体がフラついている。


「……ハァ……ハァ……ッ」


 近付くにつれ、男の苦しそうな息遣いがはっきり分かるようになる。


 恋と来道の意識はその様子に釘付けになって、自然と、図書館へ進もうとする足を止めてしまっていた。

 しかし、そんな恋達の視線に気付いた素振りも見せず、男は二人の横を通り過ぎていく。


 ――血……?


 手の甲の小指側からだ。

 切り傷にしては出血がかなり酷くて、それに気を取られていると、男は道の端の壁に右肩からぶつかり、もたれかかった。


「ッ。あ、あの、大丈夫……ですか」


 歩みが止まった彼に、躊躇いながらも恋が声をかける。

 相変わらず呼吸は乱れている。むしろ、少しずつ悪くなってはいまいか。


 問いかけに反応した男は、ゆっくりと少年に脂汗を滲ませた顔を向けた。


「だい、じょうぶ……大丈夫なんだ。だから、だから逃げ、ない、とッ」


「……は?」


「救急車、呼んでくれ。頼む、もう動けないんだ。俺はまだ、助かる……はずなん、だよ」


「な、何言って……」


 逃げる、とは何だ。一体何から逃げているというのか。

 それに、手の傷も深いように見えるが、それでここまで体調が悪くなるなんて、おかしい――


「ゾンビ共が、あっちで俺等を襲って来たんだ」


「ッ!?」


「それで、噛まれて……クソッ」


 壁を支えにやっと立っていた男の体が、ずるずると下がっていき、その場にぐったりと座り込んだ。

 息もどんどん荒くなっていく。


「頼む、救急車、を。俺は、死にたくなんか、ゾンビに、なんかなりたく……な、ぃ――」


 そこまで言って、男は完全に脱力し、そうして動かなくなった。


「ッ!だ、大丈夫ですか。へ、返事してください。……嘘だろ。おい!コノミチ、戻るぞ家に」


「うんッ」


「急がねぇと――ぇ?」


 立ち上がって、「さくらい」に引き返そうとした恋だったが、不意に右の手首を掴まれた。

 握って来たのは例の男だ。


「あ、あぁ、良かった。まだ生きて――」




「ヴ、ボッ……ガ、ア、ァァアアアアアアッッ!」


「!?う、うわぁぁあああああああ!」


 いきなり男がこちらに噛み付こうと襲って来て、恋は大声を上げながら、手首の拘束を振り解いて大きく後退った。

 尻餅をつき、見上げると、正気を失った男がこちらに迫って来ている。


「レン君!」


 来道が恋の腕を掴んで立ち上がらせようとする。

 恋も半ば自力で起き上がり、二人は慌てて逃げた。


 逃げた、逃げた、無我夢中で逃げた。


 そうして少し冷静になって、足を止めると、自分達が「さくらい」とは反対方向に走っていたのだと気付く。

 男の姿も見えない。


「ま、撒けたね、レン君」


「あぁ、けど」


 さっきのあの男、確かゾンビが出たと言っていた。

 そして、自分もゾンビのように……。

 いや、「ように」ではない、あれは多分()()()()()()()だった。


「あのゲームの話、本当だってのかよ」


 あり得ない、けれど、自分が先程見たものは現実だ。

 それに、全てが真実なのだとしたら、


「……なぁコノミチ、そういやあの人逃げて来たって。それって、ゾンビ、だよな?」


「か、かも」


「……」


 不味い。ゾンビから避難しようとしたあの男が辿った道を、恋達は逆方向に進んでしまった。

 つまり、二人はゾンビのいるかもしれない場所へ、自ら飛び込みに行ってしまったのだから。


「どうしようレン君、ひ、引き返す?」


「ったり前だろ」


 言いながら、周囲を見渡す。

 近くには図書館の入り口がある。

 いくら怖かったとはいえ、こんな場所まで逃げてしまっていたとは。


 ――クソ、何やってんだよッ。


 分からないが、さっきのゾンビが「さくらい」に向かっているとも限らない。

 響や他の皆が心配だ、行くしかない。


「!?れ、レン君あれ……!」


 その時、来道が指差した方向に目を向けると――血塗れの人がいた。


 ゾンビ。


 その三文字が恋の脳裏に過って、顔が一気に蒼褪めた。

 最悪なのは、それが道端の数体だけではなかったということ。


 図書館の方からだ、見て分かるだけで数十体はいる。


 奴らは鈍い足取りで敷地の外へ向かっていた。

 こちらに気付いたのか、距離が徐々に縮まりつつある。

 走っては来ないようだし、早いうちに逃げなければ。


「行くぞ、コノミ――」


 踵を返し、走り出そうとした瞬間だった。


 ――ガシャァァァァァァァァァァアンッ!


 恋達の前方を、駐車場から出て来た車が物凄い勢いで通り過ぎ、壁に激突した。


「「――ッ?!」」


 崩壊した壁面、目も当てられない程に(ひしゃ)げたバンパー。

 唐突の事で、驚愕に身を縮ませて固まった二人を置き去りに、硝子が砕け散った運転席の窓から、女が這い出て地面に落ちる。


 首が異様な方向に折れていて、血塗れで、恐らく即死しているはずだった。


 ――しかし、ゆらり起き上がり、女がこちらへおもむろに向かって来る。


「っ!お、おいコノミチ」


 後ろで腰を抜かしている来道の手を引っ張って、恋は逃げようと駆け出した。

 早く。早く、響達の所へ戻らなければ

 アレに噛まれたら、多分さっきの男みたいに……。


「ぇッ?」


「ヴォガァァァァア!!」


「「わぁ!?」」


 しかし、そんな彼らの前に駐車場にいたゾンビ達が、その時既に大勢迫って来ていた。

 後ろと女のゾンビに気を取られ過ぎていた。


 迫る屍達の魔手をギリギリで(かわ)したが、


 ――ヤバい、つ、捕まるッ……!


 どこか、どこかに隠れないと。


「ッ!コノミチ、こっちだ」


「えっ、う、うん……!」


 駐車場の向かいのビルに向かって、恋達は走った。

 何とか中には入れたが、しばらくここでやり過ごすしかない。


 何故か知らないが、この短時間で、ゾンビ達が二人のいた場所へ引き寄せられるように続々と集まって来ている。


「コノミチ、大丈夫か?」


「だ、大丈夫。レン君は」


「大丈夫に決まってんだろッ……大丈夫に。何とか、なるって」




「――何で、こんなとこに子ども、が?」


「「?」」


 不意に、誰かの声が背後から聞こえ、二人はそちらへ顔を向けた。

 中年の男が、きょとんとした表情でこちらを見つめていた。


 しかし――次の瞬間、その口元が鋭く歪んだ。


「や、やった、これで()()()()()()()!ハハハ……ッ!」


 酷く焦ったように恋達の方へ男が走った。

 その右手に金属バットを持ってッ。


「!逃げろぉ!!」


 訳が分からないまま、恋は走らなければと思った。

 死ぬ、殺される!


 だが、


「はい、ザンネン――もう時間切れなのですよ」


「……はぇ…………?」


 それは、恋が後ろを気にして視線を向けた刹那の内に起きた。


 ――シュッ。


 黒い何かが一瞬にして、男を真横に吹き飛ばし、壁に叩き付けた。


 強烈な衝突音。

 それとほぼ同時、まるでトマトを投げつけたように、血が弾け散って壁面を汚した。


「……は?」


 逃走すべきなのを忘れ、恋は目を見開き、その場に立ち尽くしてしまった。

 いや、それは来道も同じだ。


 意識を、男が今さっきまでいた場所へと戻す。


 ――そこにいたのは、白い外套に身を包んだ少年だった。


 声すら発せないでいると、例の少年がこちらに目を向けた。


「おや?外から新しく人が入って来たのですね。……まぁ良かろうなのですよ、人が多いに越した事はない」


 浅黒い肌に、漆黒の髪。

 何より、外套から覗く装身具が黄金色で目立つ。

 そんな奇妙な恰好の少年だ。


 恋達よりも幼い、ともすれば小学生低学年程度の見た目だ。


 しかし、それよりも、恋達は彼に恐怖を覚えていた。

 だって、きっと、多分……さっきの男を殺したのは、この怪しい少年だろうから。


「自己紹介を。ワタシの名はシャーエイドロード、今は神の使徒をしております。早速ですが、アナタ方は今から、ワタシの作ったミニゲームのプレイヤーです」


 理解出来なかった。この子は何を言っているのだ。

 神?使徒?それにミニゲームとは……。


「と言っても、ゲーム内容は実に簡単なのですよ。影掴み――こちらの言葉で言う影踏み鬼、それだけ」


「……は?」


「影踏み、鬼?」


「はい。ここには大勢、ミニゲームの参加者がいますので、彼らとしてください。この建物の中で。ただ、幾つか特殊ルールがあって……一つ、鬼は影を踏む際に「影踏んだ」と相手に伝える事。二つ、ゲーム開始から一時間間隔で、その時鬼になっている人間はワタシに殺されます」


「「ッ!?」」


 恋達は言葉を失った。

 鬼役の人間が殺される……つまり、今さっき死んだあの男は、鬼だったから殺された?


 ――ま、待てよ……そんなッ。


 そんな馬鹿な事あり得るはずが、いや、あって良いはずがない。

 不味い、外も危険だが、こっちの方がよっぽど危ない。


 早くこの建物から出なけれ


「――あぁ、そして三つ、もしここから一歩でも出たプレイヤーは、同じくワタシに殺される。ですので、逃げてもムダなのですよ、そこの方」


「ッ!」


「ちなみに、実際に出て行ったのが、あそこで彷徨っているゾンビ達な訳ですが。ふむ、周りを巻き込んで随分と数を増やしましたねぇしかし。何人か死んだのを見て、その後はもう誰も出て行かなくなったのに……。相変わらず遊戯神様のゲームは恐ろしいのですよ」


「……そ、そんな…………」


 眼前の現実が、到底受け入れられない。受け入れたくない。


 ここまで、逃げて、散々逃げて、取り敢えずはそうするしかないと、自分に言い聞かせながら全部から逃げて来た。

 三浦袈刃音から、響から、そしてゾンビ達から。


 ……間違いだった。


 こんな事になるのなら、逃げるなんてしなければ良かった。

 けれど、最悪だったのはここからだった。


「さて、また新しい鬼が要るようになりましたね。――では丁度いいですし、そうですね、次の鬼はアナタで決まりです。頑張ってくださいね」




 シャーエイドロード、彼が鬼に指名したのは恋だった。





文月です。


今回は長めの内容でした。

お知らせは今の所、特にないです、はい。


では、また次回!


【・ご案内】

 下の★★★★★の部分は、読後、ぜひ本作の評価にお使いください。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》





【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】

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