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第51話抜け出しますか?

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 逃げた、逃げ出してしまった……。


 児童養護施設「さくらい」の裏側にある通路。

 その片隅で、葉山(はやま)(れん)は膝を抱えて地べたに座り込んでいた。


 沈黙の中、仏頂面を両膝へ(うず)める。


「……ッ」


 口の中で小さくした歯軋りは、胸の中から溢れた苛立ちだ。

 あの時、逃げ出したその直前に見た響の顔が忘れられない。


 ――何で響は、あんな奴の事……。


 三浦袈刃音、あいつだ。奴が来てから、全てがおかしくなり始めた。

 突然現れたと思ったら、響の知り合いだといって施設の中にずかずかと入り込んで、だが、何か怪しかった。

 あるいは、そうであって欲しかっただけなのかもしれないが。


 けれども、奴と一緒に別室へ向かった後に響が体調を崩したのは確かだ。

 しかも、いよいよ疑わしくなって、三浦袈刃音の行方を追っていた時に奴が誰かを脅しているのを見つけた。


 だというのに、響が味方したのは奴だった。


「チクショウ……」


 せめて味方なのは自分でありたかった。

「好き」だなんて、そのたった二文字が言えないとしても、あんなぽっと出の奴じゃなくて長く共に過ごした自分がよかった。


 そのくらいの繋がりはあると思っていた、なのに……。


「あ、あのレン君。いないと思ったら、やっぱり、ここにいたんだね。よかった……」


「コノミチかよ。……あっち行け」


「え、で、でも、マミお母さんが家から出たら駄目だって。響お姉ちゃんも言って――」


「いいから行けっつッてンだろ!イライラしてんだよこっちは」


 恋が怒鳴って言うが、自分の探しに来た来道はオドオドしながらも「でも」と一向に去ろうとしない。


 チッ、と恋は小さく舌打ちする。


 月山来道(こいつ)とは年が一つしか違わないし付き合いもそれなりに長い。

 だからか、年上でも、自分にはこうして食い下がってくる。


 中一にもなって臆病が直らないクセに、相変わらず面倒な。


 溜め息を吐き出し、恋は立ち上がってズボンの尻の汚れを手で軽く払った。


「もういい、行く」


「レン君、行くって……どこに?ぼ、僕も」


「どっかだよ、どっか。つか付いて来んな」


 などと言ったが、例によって来道には何を言っても無駄らしい。後ろを付いて来る。


 諦めて恋は足を進ませる。


「え、施設の外に出るの?危ないよ」


「うるさいコノミチ。だったら回れ右して帰れっての」


 その方が都合がいい、今は誰かといたい気分じゃないから。


 当然、外が危ない、というのは知っている。

 今朝も血塗れの頭がイカれた連中がここを襲ったのを見た。


 それを響が抑えに行ったのだ。


 彼女は何かを知っているようだったが、教えてもらえなかった。

 満実の方にも、響から事情を聞かされているだろうと思って尋ねてみた。

 けれど、同じ様にはぐらかされた。


 分かっているのは、結局、外で異常事態が起こっているということだけ。

 が、まぁ、少しくらい抜け出したって問題ないだろう。


 今は暴れている人間の姿が見当たらないのだし。


「え、えぇー……塀を上るの?」


「ったり前だろ?普通に出たら誰かに見つかるじゃねぇか」


「あっ!ま、待ってよレン君」


 助走をつけてから跳べば塀の天辺まで手が届く。そこから勢いと腕の力を使えば越えられなくはない。


 ……案の定、来道は一人で上れず、結局手伝ってやる羽目になったが。


「ね、ねぇ……レン君、今からでも家に戻ろうよ」


「ここまで来て何言ってんだよコノミチ」


「だって……」


 言いながら、来道はおずおずと背後に続く下り坂へ顔を向ける。


 遠くで何か人のようなものがうつ伏せに転がっていて、動く様子もない。


「ひッ!し、死んでる……」


「あんま見んな。気分悪くなるだけだぞ。まぁでも……ホント、何が起きてんだろうな。人が襲って来るし、死ぬし、でも響は何か隠してるし」


「もしかしたら、この前頭の中で聞こえたゲームの話に関係あったりして」


「ゾンビゲームが?そりゃあ、俺も聞いたけどさ。昨日までなんもなかったじゃねーか。それに【ポイント】とか、別に念じてみても出てこなかっただろ?」


「そ、それは、そうだけど」


 くだらない、そんな非現実的なことが起きるはずないだろうに。


 とはいえ、何かが起こっているのも事実。

 一番現実的なのはテロだとか、暴動だとか、そういうのだ。


 ――でも、警察が来ないし。ていうか、響は呼んだのか警察?それに、あんま考えたくないけど、響は人を……。


 殺した。何か事情があったにせよ、「さくらい」の家族を守ろうとしたにせよ。

 おかしいことだらけだ。


 不審者が「さくらい」で暴れて手が付けられないのなら、施設の外に逃げれば良かった。

 なのに、家に隠れているようにと響はあの時叫んだ。

 警察だって既に呼んでいて、駆け付けていてもおかしくない。


 そうすれば人を殺す必要もなかったし、全員を安全に守れた。


 頭の良い響なら、そのくらい理解出来ていたはず。


 それをしなかった本当の理由。

 ただ、数日前に聞こえたあの声の通り、仮にゾンビゲームが始まっていたなら。

 今日襲って来た連中がゾンビだったとしたら。


「んな、まさかな……」


「?何が?」


「んでもねぇよ」


 一瞬脳裏を過った思考を振り払うように、恋は意識を切り替える。

「さくらい」を通り過ぎて、今進んでいるこの上り坂を歩ききった後はどうしようか。


 行先は特にまだ決めていない。


 少しの間、誰の邪魔も入らない場所で気持ちを整理したいだけだから、そういう場所ならどこでもいい。

 もっとも、既に来道がいるので、完全に一人になれる訳ではないが。


 ただ、あのまま家の外にいて、響や三浦袈刃音に見つかり、顔を合わせる羽目になるより数段マシだ。


 適当に場所を探そう。





文月です。

投稿が少々遅れました。すみません。


【少しお知らせを】

今週の次回投稿が数日遅れるかもしれません。

いろいろありまして、別作品の方にほとんど手を付けられていないので、その執筆を。


とはいえ、できるだけ遅れないよう頑張りたいと思います!


お知らせは以上となります。


では、また次回!!


【・ご案内】

 下の★★★★★の部分は、読後、ぜひ本作の評価にお使いください。

 ブックマーク、感想などもよければ。


 作者のモチベーションとなります。


 《完了》





【次の話へ進みますか?】

【→はい/いいえ】

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