第50話準備を進めますか?
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『アンデッド・ゲーム』開始からの一週間は、最初の難関だ。
前回の世界までは、その期間だけで鹿羽市にいた人々のおよそ一割が脱落していった。
一割というのは、正確に死者の数を数えたわけではない。
あくまで袈刃音や響の推測で、根拠は二人が肌で感じ取ったものだけ。
ただ、少なくとも、そう考えてしまっても不思議でない数の人が、不死者へと変貌を遂げ街に溢れ返っていたのは確かだった。
「っし、終わった」
やや薄暗い部屋の中、袈刃音は軽く伸びをして独り言を漏らした。
周囲を見渡すと、部屋を埋め尽くしているのは胸の高さまで積まれた段ボール箱達。
綺麗に並べられているが、皆、袈刃音自身が並べたものだ。
「それって食料なんでしょ?」
部屋の照明がついて背後から聞こえた声に振り向くと、千華だった。
「凄い量、だね……。それも全部【ポイント】で?」
「うん、缶詰とかの保存食ばっかだけどな。これで三か月くらいは持つよ」
「そっか」
「……休んでても良かったんだぞ。疲れてるだろ?」
朝にも思ったが、『アンデッド・ゲーム』の所為で、皆、昨日から色々な意味での緊張が続いているはずだ。特に千華は。
休める時に休んでおくのがいい。
「へーきだって、ちょっとくらい。それにさ、私も色々手伝った方が早かったでしょ?」
「外はそうか、もう終わったのか」
「うん。ゾンビ対策はこれで問題なしだって、湖窓さんが。まぁ、元々塀もあるし、やり過ぎ感はあるけど」
「大丈夫だよ、あとでやっといて良かったって思うから。ありがとな千華」
そう言って、袈刃音は彼女に微笑を向ける。
これで拠点の防衛がやりやすくなった。
「じゃあ、今日の作業は終わりってことで。晩飯まで休憩だな。俺はちょっと、これからやることあるから」
「えっ、だったら私も」
「のんびりしとけって、どうせ明日から何日かは、んなこと出来る余裕なんてなくなるだろうし」
「――そうだね、確かに今は羽の休め時かも」
「「?」」
と、そこへ響の声が唐突に割って入る。
恐らく、外から戻ってこの物置部屋に立ち寄ったのだろう、彼女が袈刃音達の隣まで来た。
「そっちも終わったんだね、袈刃音」
「あぁ、今な」
確認作業もそこそこに、響は千華に視線を向ける。
「荒山さん、さっきはありがとね?」
「ううん、あのくらいは全然……。それより、羽の休め時って?ていうか、袈刃音も湖窓さんも、何でそんなに警戒してるの」
「単にゾンビが増える、って話じゃないからかな」
「どういうこと?」
考えを上手く言葉にするためか、響は一呼吸おいてから話を続けた。
「私と袈刃音の予想だと、これからゾンビが増えて――混乱が起きる」
「混乱……」
「そう、混乱。今はゾンビが増えてってる真っ最中。なのに、大抵の人はあいつらの殺し方を知らない。もちろん、近くに現れた時に絶対やっちゃいけないことも。だから状況が物凄いスピードで悪くなる」
彼女の言葉で記憶が蘇る。
あれは最早、蹂躙だ。抵抗も何も出来ず、大勢の人が死に、不死者の勢いだけが増していって逃げ場を失う。
かつての袈刃音もそうだった。
そして、
「実例なら、荒山さんも見てるよ」
「?」
「学校、ここに来る前に袈刃音と行ったよね。ゾンビが大量にいる学校に。でも、そこも最初からゾンビに埋め尽くされてた訳じゃない。始まりは多分、数体からだったと思うよ」
「ぇッ、じゃ、じゃあ……」
「うん。今言ったみたいにゾンビを見つけた時に上手く立ち回れなくて、それで全校生徒の半分くらいが死んだ。荒山さんが見たのは、そうなった後の光景だよ」
「……ッ!」
目を見開いたまま、千華は絶句した。
高校で犠牲となったのは数百人。
生き残ったものは逃げるという選択肢でしか自らの身を守れなかった。
袈刃音と同じく現場でそれを目の当たりにした千華ならば、今の話で事態の深刻さが理解出来ただろう。
鹿羽市全体が、あの学校と同じ状況になるのだと。
「ここは広いし、建物もしっかりしてるし、「安全そう」だって考えた人が結構寄って来ると思う。響が言った混乱をこっちに押し付ける形でな。だから、ここで俺等がいくら警戒してたって、イレギュラーな事態は起きる。対策はしとかなきゃだろ?」
「そういう、事だったんだ……」
響の話に付け足して袈刃音が言うと、千華は納得した。
が、同時に不安も生まれたらしく、彼女の顔が曇った。
「まぁ、防御用の仕掛けはさっき千華と響に準備してもらったから、そこまで心配しなくてもいいと思うけどな」
「だね。水も食料もあるし、ここなら多分他の所より安全に籠城出来るよ、荒山さん」
「う、うん……」
千華の表情は優れないまま。
声も頼りなさげだ。
とはいえ、今の言葉で少しは気が楽になったように見える。
そうだ、必要以上の悲観は要らない。自陣の防衛設備とそれを続けるための蓄えは用意したのだから。
とりあえず、初めの一週間、この難関を乗り切る目途は立った。あとは耐え忍ぶだけだ。
「っし、じゃあ俺はちょっと出かけるから――」
ゾンビの増え方が以前より激しい。
その異変の理由を知るために、「さくらい」の外の様子へ調査に向かう必要がある。
袈刃音は千華達に一言声をかけて出かけようとするが、
「ねぇ、ヒビキちゃん、レン君見なかったッ?」
その声は唐突に少年達の耳まで届いた。
「マミ姉?恋が、どうかしたの」
「いないの、どこにも」
「そんな……いつから?」
「分かんない。けど、私は二時間くらい見てなくて」
「二時間!?――それって、袈刃音」
「ッ。もしかして」
「?何か知ってるの、ヒビキちゃん?」
「あぁ、いや、それは……」
二時間前といえば、袈刃音達の前から逃げるように、恋がどこかへ行ってしまった時刻とほぼ一致している。
母屋満実。彼女の話が本当なら、「さくらい」の施設の外に出てしまったのか。
――と、響と同様に袈刃音が嫌な予感を胸に抱いていると、見慣れない少女が満実のそばに寄って来た。
見た目からして、小学生低学年くらい。しかし、微かに覚えがある。
この施設で響と暮らしている少女だ。
「ねーぇー、満実お母さーん。コノミチお兄ちゃんもいないよぉ?」
「え?……そういえば確かに。ど、どうしよう」
少女の言葉で、満実の顔に不安が増す。
「響、コノミチって?」
「月山来道。恋と仲がいい子で、もしかしたら一緒にいるかもしれない」
「嘘だろ……ッ」
厄介な事態になってしまった。
今の外は危険だというのに、二人もいなくなってしまうなんて。
けれど、二時間ならまだ遅くない。
「袈刃音」
「分かってる、探しに行こう」
予想しなかった状況の中、生まれた重苦しい空気を打ち破るようにして、袈刃音と響は二人の少年の捜索に動き出した――。
文月です。
祝・50話!
ブクマ、★評価、いいね等、ありがとうございますっ。
二章はまだ序盤ですので、引き続きお楽しみ頂けるように頑張りたいと思います。
今回は特にお知らせはございません。
基本の週一投稿に変わりはないです。また何かあれば最新話のあとがきにてお知らせしますので。
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